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戦場に響く鈴の音
第35章 思惑
その佐京を鈴が真っ直ぐに見ている。
金色に瞳を輝かせて佐京に馬鹿にされるつもりはないと、しっかりとした態度を保つ。
「問題ない。正直、自信は全くない。汐元様が言われるように鈴の琴の音に価値があるとは思えない。それでも鈴は神路の為に琴を弾く。鈴が神路にしてやれる事はこれしかないのだからな。」
そう言い切ると蕾が綻ぶ様な表情を俺に向ける。
笑ってやがる。
己が恐怖を笑顔に変えて鈴は立ち向かおうとする。
俺がしてやれる事は、今宵、鈴の奏でる音がどんな形であれ、しっかりと受け止めてやるだけだ。
「怖がる事はない。お前の腕は確かだ。音に負けるな。街中へ響かせてやれば良い。」
鈴の小さな頬を撫でて助言をすれば
「鈴は何も怖くない。」
と小さな頬が膨らむ。
本当は怖がっている。
着物の袖に隠された鈴の細い指先が震えてる。
佐京もそれを見逃してはいない。
「失敗したら姫さんの為に豪快に笑ってやる。」
高笑いで佐京が鈴の怒りを煽る。
戦場と同じだ。
恐怖に負けるくらいなら怒りを持つ方が戦える。
佐京には鈴が姫ではなく俺と戦う兵士に見えている。
「今宵は鈴の琴で汐元様に満足して貰う。それが鈴に出来る恩返しだと思って弾くよ…。」
身分も財産も何も持たずに生きて来た鈴が唯一持つ財産で汐元を納得させると鈴が言う。
汐元が鈴の存在を認めれば、他の家臣も鈴を黒崎の姫だと認めざるを得なくなるとわかってて鈴は自分の戦いに挑む。
「お前なら…、出来るよ。」
鈴の額に口付けてやれば、鈴が勝ち誇ったようにニンマリと笑顔を作る。
佐京や茂吉が息を飲む。
誰よりも高貴な笑顔を見せる鈴が真っ直ぐに汐元が待つ広間へと向かう。