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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣



態度が変わる草履番が禿(かむろ)と呼ばれる遊女見習いの子供を呼び付けて俺の足を洗わせる。

歳は鈴と変わらない子供…。

初潮がくれば新造(しんぞう)と呼ばれ男に水揚げされる幼子と何故か鈴の姿が重なって見える。

あれが女だったとしても、遊郭で売り買いされて最悪の人生しか待ってなかったのだと考えれば梁間の小姓として買われた事はまだマシだったのかと悩んでしまう。


「お部屋へとご案内します。」


草履番が深々と頭を下げる。


「俺の客は来てるか?」

「随分と前からうちにお泊まりです。すぐにお呼びしますので、今暫くはお酒でも上がってお待ち下さい。」


義父が俺の為に手配した男は黒崎の支払いで最高級の妓楼に寝泊まりしてやがる。

妓楼の1階は遊女や草履番、禿などが生活する場になっており、客は2階で寝泊まりする。

草履番は俺を連れ、2階の一番奥の部屋へ向かう。

この妓楼での一番の特別室。

そこへ向かう廊下ではあちらこちらの部屋から女の喘ぎや嬉声が聞こえて来る。

俺が案内された奥の部屋では手前に禿などの控え部屋があり、二重、三重に襖を閉める事が出来るから声が漏れる心配がない。

義父がここを選んだ理由がわかる。

宿や茶店では誰が居るかわからない。

ここなら存在するのは俺と相手だけ…。

花魁も同席はするが、口が硬い者だけが選ばれる。

しかも、下級妓楼では存在しない厠もちゃんと2階に設置されている。

ふと、持ち運びの厠に必死にしがみつく鈴の姿を思い出した為に、せっかくの遊郭だというのに萎えた気分に陥る。

ここへは任で来たのだと自分に言い聞かせる。


「随分とお若い主様(ぬしさま)ですこと…。」


髪に長い簪を何本も刺す花魁が座敷の奥で俺を待ち構えている。

目元のキツい女だ。

こういう女は好みじゃない。

だが、この遊郭じゃ一番手の女なのだろう。

今宵はこの女が俺の相手をする。

本当に面倒臭い場所を指定されたもんだと今は嘆きたい気分にしかならなかった。


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