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戦場に響く鈴の音
第4章 出陣
燕の加濃(かのう)遊郭よりかは狭い街だと思う。
「ちょっと、ここは子供が来るところじゃないわよ。」
見世から痩せた女が俺に言う。
小見世程度では格の低い遊女くらいしか居ない。
小銭を女に投げてから質問する。
「大見世はどの辺りだ?」
俺の質問に女が目を見開く。
「あんた…。」
「俺は遊女遊びはしない。花魁は別だがな。」
俺の腰にある刀に気付けば女は態度が変わる。
花魁は遊郭で最高級の女…。
女の質も別格だが値段も普通の客で払える額じゃない。
それを買うと当たり前に言う俺はそれなりの屋敷の人間だと誰にでも理解が出来る。
「街の中央に行けば、すぐにわかるわ。」
「ありがとう…。」
更に小銭を投げてやれば女は俺の心配をする。
「ねえ、気を付けなよ。中央に行けば行くほど危ない連中も増えるからね。」
そんな事は百も承知。
大見世規模の妓楼が並ぶ中央なら金持ちが増える分、その懐狙いでタチの悪い連中も増える。
とんでもないところを指定しやがったな…。
ここへ行けと言った義父に恨み言を言ってやりたい。
小見世の倍の広さはある入り口を持つ大見世の妓楼が見えてくれば気を引き締める。
目的の妓楼の入り口に入れば女ばかりの妓楼で唯一暮らしてると言ってよい男が俺を品定めする。
夜は草履番として客の草履を預かる男…。
その実は、妓楼を経営する女将に次ぐ番頭役をしており、女の揉め事の処理や客の選別から手配までを取り仕切る。
その年配の男がニタリと笑う。
「お坊ちゃんには、うちの妓楼は早過ぎますよ。」
やんわりとだが俺を客として認めない態度をとる。
「だろうな。だが義父はここへ行けと言った。黒崎だが…、ちゃんと予約があるだろう?」
「ご領主様のっ!?」
男の態度も一瞬で変わる。
燕の遊郭でも黒崎の名だけで遊べる。
遊郭が所有する芸妓や花魁は城や領主の屋敷の宴の華として呼ばれるからだ。
その宴に出るだけで妓楼は10日以上の稼ぎになる。