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戦場に響く鈴の音
第5章 一夜
この街は治外法権…。
人斬り御法度の独自の法を持つ遊郭なら茂吉は自分が守られると思ってる。
「ここでそんな物を抜いちゃ、黒崎のご領主が困るだけですよ。坊ちゃん…。」
茂吉の下品な笑いが嫌いだ。
刀の切っ先に力を込める。
「わかってないのはお前だ。俺は黒崎の養子…、生まれ素性もわからぬ人間…。ここでお前を切っても黒崎は気にも止めん。」
俺が出せる有りっ丈の殺気を放ち、人斬りは本気なのだと茂吉にわからせる。
「いや…。それは…。」
茂吉の笑いが固く乾いた笑いへと変わっていく。
「俺が罪人になろうと誰も気に留めない。だが、黒崎への侮辱は認めない。俺は義父に対する恩の為なら迷わずお前を切り捨てる。それで罪人に堕ちたとしても義父は笑ってくれるだろう。」
ゆっくりと刀を振り上げれば
「ちょっとっ!待ったっ!坊ちゃんっ!」
と完全に笑えなくなった茂吉が叫ぶ。
「俺を坊ちゃんと呼ぶな。」
「旦那っ!」
切り替えの早い奴だ。
「何だ?最期の言葉なら聞いてやる。」
「後1500…、それなら一週間で集めてみせる。間違いなく天音に送る。だから…。」
「3日でやれ…。」
「そんな無茶な…。」
「お前がこの遊郭で遊ぶ時間を減らせば良いだけじゃないのか?茂吉…。」
「その通りです…。」
完全にしょぼくれた茂吉が恨めしげに俺を見る。
一応は刀を収めてやる。
「仕事が終わればひと月は遊ばせてやる。」
茂吉に特別報酬を匂わせる。
「一番花魁を付けて貰えるなら…。」
茂吉は商売上手だと笑うしかない。
「好きにしろ。」
「なら、今から行って来ます。ついでに黒崎の跡継ぎは怖いと触れ回っておきますよ。」
ようやく自分のペースに話を戻す茂吉がニタリと下品な笑顔を向ける。