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戦場に響く鈴の音
第5章 一夜
茂吉の様な人間は情報屋でもある。
俺の噂が広まれば、戦場での状況も変わって来る。
「ちょっと待て、茂吉…。」
「他に何か?」
「今の西元の状況を報告しろ。」
合点がいく茂吉が座り直し図々しくも花魁に自分の盃を向ける。
「西元は完全に焼け落ちました。」
「それは知ってる。」
だからこそ、技術者と労働者を集めて築城し直す構えで俺はここまで来た。
「ただ、不思議な事に西元を丸焼きにした由の笹川は一旦、川向こうへ引き返し、本陣だけを構えて全く微動だしてねえって話です。」
「川向こうに戻った?」
「その通り、5万の兵は無傷のまま本陣でのんびりとしてるらしい。」
「ふむ…。」
「こいつは楽観的な噂だが、もしや5万の兵のうち既に半分は由の首都へ引き返してるんじゃないかって見方もありますよ。」
「それは無いな。」
ただ5万もの兵を何も無い場所で常駐させるのは戦略的にかなり難しいと言える。
それを考えれば笹川の目的が見えて来る。
「なるほどな。では西元に居た兵はどうなってる。」
「8千は残ってると聞いてますよ。食料や水、薬品の大量注文を受けた商人が居ますんで…。」
西元に残った兵が仮の陣を焼け跡に敷き、健気にも由の攻撃に構えてると茂吉が言う。
「西元に居た兵のうち、5千は黒崎の兵だからな。」
西元に俺が残した1万の兵の内、半分は古くから黒崎に仕える西の連中ばかりだ。
黒崎の兵ならば西元を死守する重要性を理解してる。
由に落とされれば自分の家族が由からの略奪被害に合う事くらいは百も承知。
西元がまだ支羅の名で由に支配を受けた頃、西元近隣の村や町は毎日のように略奪を受け、暴君、李の圧政に苦しんだ。