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親愛なるご主人さま
第9章 エージェントX

エージェントX社の細井は淡々と、契約に関しての細部を不備なきように詰めていった。痩身でオールバックの髪に銀縁の眼鏡の風貌は冷徹でやり手のビジネスマンのようであった。
「はい。拒否や抵抗、脱走など、もってのほかです。言うことをきかなかったら厳しくお仕置きしてやってください」
“S”は震えて佇む菜穂子の肩を抱くようにしながら答えた。
「ひとつご提案がございますの」
それまで無言だった玲子夫人が口を開いた。
「定期的な奴隷調教の進捗報告書は細井さん経由で“S”様に届きますが、”K“や私が書くより、菜穂子さん自身に「ご主人様への調教のご報告」として「お手紙」を書かせるのはいかがですか?調教の様子を詳しく、リアルに、偽りなく、菜穂子さんが書いているかどうか、郵送する前に私たちがチェックいたしますが・・・・ウフフ」
「自分に施される調教を自分で振り返させ、手紙にすると? おおっ、それもまた羞恥な調教の一種。素晴らしいアイデアですな奥様。“S”さん。それでよろしいですか?」
細井が促すと“S”は二つ返事で玲子の提案に同意した。
「菜穂子の直筆の手紙が届くのが楽しみです」
菜穂子の意思確認や同意など全く無視されて、奴隷調教契約の細部が決められてゆくのであった。
やりとりを聞きながら菜穂子は首輪に繋がれたまま身体が萎えるように絨毯の床に伏せ落ちた。調教師夫妻の見下ろす視線を感じ、膝や肩を震わせた。それが不安によるものか、期待に震えるマゾの興奮なのか菜穂子自身でも分からなかった。
「ふむ。ではこれで奴隷調教委託契約は締結いたしました!おめでとうございます」
細井は芝居がかった口調で宣言すると、シャトー・マルゴーの赤ワインをサイドボードから取り出し四つのグラスに注いだ。
「さあ乾杯しましょう!契約締結に乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
「マゾ奴隷菜穂子に乾杯。ウフフフッ」
そして、ホテルのワインで乾杯をしたあの春の日から数えて、7ヶ月と4日の秋の日、梶篠夫妻の洋館屋敷の電話が鳴った。エージェントX社の細井一馬からである。
“S”から伝言である『納品希望日』が圭吾に伝えられたのである。

