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親愛なるご主人さま
第10章 待ちわびた聖夜

「細井さん、“S”君も一緒に来るのかと思ってたよ」
ソファに座ってから圭吾が訊いた。
「“S”氏は仕事が終わってから一人で来るそうだ。仕事熱心なくそ真面目男め。8時ぐらいになるらしい」
「そうか、それじゃパーティーの式次第を少し入れ替えないとならんな。菜穂子のショーを景気づけに最初にやろうと思っていたんだが・・・」
「まぁそのへんは、臨機応変にやっていきましょうよ。菜穂子の出番はパーティーの後半のオークションの合間に余興としてやってもいいじゃありませんか」
玲子が間に入った。
「おいしいワインでもいかが?今日の日の為にヨーロッパから取り寄せたのよ」
「いいね。地元の山梨ワインと飲み比べてみるか」
「悪いけど比べ物にならないわよ」
「こっちに運びなさい!」
玲子がドア越しに命ずると、「はい!」という返事と共にメイド姿の菜穂子がワゴンを押してきた。
ワインクーラーの中のラベル文字を見るとイタリア産高級品バローロだ。4つのグラスと大皿に盛ったプロシュット(パルマハム)やパルメジャーノ・レッジャーノチーズの香りがソファに座る4人の鼻をくすぐる。
「今夜のオークションが盛況になることを祈って」
「乾杯!」
4つのグラスをカチンと合わせた。
窓から差す弱い西日がバローロの赤をより芳醇な味わいに引き立てた。
「うん。これは美味い!」
圭吾と細井が声を合わせて称賛した。
「おや?メイドに化けているから分からなかったよ。久しぶりだね~、菜穂子さん」
「細井様!お、お久しぶりでございます!」
「フフフ、半年見ないうちに、調教されて随分色っぽくなったな」
菜穂子は足元から身体を舐め上げるような細井の視線を感じ、メイド服の裾を手で押さえた。
「ボス。この娘が例の菜穂子ですよ」
ミスターXは口に運ぶワイングラスの手を止め、サングラスの顔を菜穂子に向けた。
「菜穂子!ご挨拶なさい!!」
「はっ、はい!」
玲子女王の命ずる強い口調と、今日初めて見る恰幅の良いサングラスの男が放つ威圧的なオーラに飲み込まれ、菜穂子は反射的に膝を床について絨毯に額をこすりつけた。双臀を高く掲げ、玲子に毎朝ご挨拶するときと同じ姿勢をとった。

