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親愛なるご主人さま
第11章 千客万来

「うん。いろいろ強引で恐い噂も聞くし・・・玲子ちゃん、適度に“X”とは距離を取って深入りしないように、気を付けたほうがいいわ」

 顔色を曇らせながら奈々は忠告した。

 玲子が女王様デビューのころからの先輩奈々の経験、カン、業界の情報などによるアドバイスには随分と助けられてきた経緯がある。

「ええ、そうですね、わかりました。実は私、あの人はどうも苦手というか、いやな空気を感じて、警戒しているの。ありがとうお姉さま。用心深くするわ」

「うん。そうしてね」

 奈々は返事を聞くと優しく微笑んで玲子をハグしてから会場へ降りて行った。



 パーティは70人を超える来客となった。会場内はここが冬の信州とは思えぬ蒸れた熱気だ。オークション開始を待ちきれない様子に溢れ、ロビーで配布された出品予定奴隷のプロフィールが載ったパンフレットに血走った眼を注ぐ男がいたり、なじみの客同士がそれぞれ所有する奴隷の交換をしてみないかと話を持ち掛ける者もいて、サロン的な要素もあり、サディスチン同志の会話は酒量と共に盛り上がり、下品な嬌声も会場のあちらこちらに響いた。今夜のオークションに期待する淫靡な笑い声が響く中、運営スタッフ役の調教助手やメイド服の侍女達が酒や豪華な肴を客席のテーブルに運んでいる。 
 各席を回る侍女達には客たちの品定めするような視線がねっとりと張り付いていた。なぜならこのパーティーの恒例のひとつで、侍女の中から1人だけサプライズ企画としてオークション対象になる通称『生贄』が発表されるからだ。どの侍女が生贄となるか、それは当日の客たちの投票によって行われ、パーティーの途中で突然発表される。各席には投票用紙が白紙で置かれ、菜穂子を除く5人の侍女たちのメイド服の左胸には1から5までの番号札がピンで留められていた。侍女たちは自分たちの中から今夜のオークションに掛けられる奴隷が1人選出されるとは全く知らされていない。普段の厳しく恥辱に満ちた調教に比べれば、来たことのない未知の山奥の洋館に連れて来られたが、メイド服を着て、客に愛想笑いを浮かべながら酒やツマミを運べば務めが終わって帰れる楽な一日と、この時はどの侍女も思っていたに違いない。
 
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