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親愛なるご主人さま
第11章 千客万来

 周りの客の揶揄する声も騒がしい。

「ふん。やかましいわ!」

 周囲の声も無視して右京は握った菜穂子の手を引き寄せて、強引に自分の股間を握らせようとした。そして抱き寄せてキスを迫った。老人とは思えぬ強い力だった。

「あっっ!・・」

 手が右京の股間の固いものに触れ、菜穂子は半泣き顔でステージ上の圭吾を仰ぎ見て目で救いを求めた。
 バーカウンター内で騒ぎの様子を見ていた玲子が素早くカウンターを飛び出し右京に駆け寄ろうとした。

「あの、右京様。ちょっとそれは・・・」

 制しようと言いかけた玲子をさらに制したのは近くにいた“X”だった。

「玲子さん。ここは俺に任せなさい」

 ”X”には有無を言わせぬ空気がみなぎっていた。

 周りの客は“X”が右京を恫喝するか、あるいは暴力で制するのか・・・固唾を飲んで見ていたが、意外にもゆっくり右京に近づくと耳元で二言、三言何やら囁いた。
 途端、聞いた右京はニヤニヤとしながら頷き、「ほぅ、そうか、フフフ、、それなら楽しみにしとくわ」と言い、握っていた菜穂子の手を離し、その手で菜穂子の尻をなで上げてからヒヒヒッ、と笑って意味ありげにウインクした。

 会場のこの一帯の騒ぎは収まる様子を見せたが、菜穂子は悪寒を伴う恐ろしさに包まれたまま、その場に立ち尽くした。

 「菜穂子、こっちにいらっしゃい!、いいから早くこっちへ」

 菜穂子の表情を見て取った玲子が間を置かず呼び寄せた。

「ぁああ。奥様」

 菜穂子は玲子の腕に縋りついた。

「テーブル回りは他のメイドにさせるから、菜穂子はもうしなくていいよ。カウンターの中にいて、Sさんが来るまでここでオークションを見学していなさい。」

「は、はい」

 菜穂子は小声で話す玲子の腕の中でもまだガクガクと震えていた。
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