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親愛なるご主人さま
第11章 千客万来
 
 それでもまだ震えている菜穂子に玲子が訊いた。

「さっき、ミスターXが右京さんの耳元で何か囁いたでしょ?すぐ近くにいたから聞こえなかった?」

「は、はい。聞こえて・・しまいました・・」

「なんて言ってた?」

「『すべて儂にまかせろ・・儂が・・爺さんにこの子をやる』と・・ぅううう」

「・・・菜穂子・・」

「奥様・・・私・・・怖い・・・」

(なにを企んでいる?X!エージェントのボスでありながら菜穂子を略奪でもする気なのか!?)玲子は唇を噛みしめ主催者席に座る“X”の不敵な横顔を遠目に睨んだ。そして客席から死角になるバーカウンターの奥の片隅に菜穂子を導き、再び抱き寄せた。

「菜穂子!“S”さんが・・・到着したら、二人ですぐにここを出なさい!」

「えっ?」

「引き渡し儀式も、お披露目ショーなども、しなくていいわ。圭吾さんと細井さんには私から説明しておくから」

「で、でも・・」

「いいから!・・裏口の扉を開けておくわ・・“S”さんの車で逃げなさい・・私の言うこと聞けるわね!菜穂子!」

「はい。玲子奥様の最後のご命令ですね」

「厳命よ!」

 玲子は直感的に危機を感じていた。“X”が今日この屋敷に着いてから嫌な予感はうすうす肌で感じるものがあり、ロビーで奈々の忠告もあって、そして今の菜穂子の言葉で確信した。

 スタッフの調教助手の男をひとり呼び寄せ『一階の玄関ロビーの受付に“S”氏が現れたら、最初に私に知らせなさい』ときつく命じた。



 玲子が警戒態勢を敷き舞台裏でそのように動いている頃、圭吾は会場のステージの上で準備を整え、マイクで声高らかに宣言した。

 「それではお待たせしました。今夜のオークションを始めましょう!」

 客席側のシャンデリアの照明が落ち、各テーブルのクリスマスキャンドルの炎だけになった。円形ステージにもキャンドルが数本立ち、怪しげに赤い炎が揺れていた。いよいよ開演だ。



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