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親愛なるご主人さま
第19章 慎一郎

物語の時計の針を1時間ほど前に巻き戻そう。
信州の山奥の洋館。エージュントX社主催の奴隷オークションパーティーが佳境を迎えつつあるのと同じころ、その会場を目指し、一人の男が中央高速道を下っていた。愛車ジャガーEタイプクーペのハンドルを握る男は夕方から降り出したにわか雪によって50キロ速度規制にイラつきながらも、期待にワクワクし、目指す会場に早く着きたい一心だった。
(菜穂子・・・8ヶ月間か・・ホントに待たせてしまったなぁ・・・)
亡き父親から引き継いだ会社が不振のどん底から想定以上に業績がV字回復して超多忙となり、嬉しい悲鳴となった。菜穂子を引き取りに行く時間が取れないだけでなく、K夫妻からエージェントX社経由で送られてくる菜穂子自筆の手紙を読む時間すらままならなかった。それでも寝る時間を惜しんでわずかな時間でも封書を開いて読むと、玲子夫人に調教され著しくM化してゆく菜穂子の様子と、菜穂子が主人である自分を想う気持ちが手に取る様にわかり、愛しさと欲情に思わずティッシュに手が伸び、自分自身を慰めたものだった。それと、菜穂子を犯そうとした薫という美貌のニューハーフの存在も気になって仕方なかった。
社長業など投げ捨て、従業員や取引先や株主らからどんなに非難されようとも、世間から離れ、菜穂子と一緒に愛欲に溺れ堕ちて、どこかでひっそりと暮らせる方が金や社会的地位など無くても幸福に思えてならなかった。
会社業績がV字回復したのは自分の経営手腕が優れていたわけではない。むしろ逆で、父親がまだ存命で社長をしていた頃は「ボンボンの若旦那は何も専務だ」と陰口を社内外で叩かれ、仕事能力の無さを揶揄されたものだ。
社長就任後、一時は会社業績がどん底まで落ちて債務超過が膨大となり、倒産寸前で融資銀行もサジを投げかけた。しかし市場で競合していた外資系の企業が本国の事情で日本から突如撤退し、結果、何もせずとも自社製品のマーケットシェアが伸び、業績が飛躍するというタナボタの幸運に恵まれたのだった。
ちょうどそのどん底の時期に菜穂子と出会った。
夜の六本木の裏路地。雨に濡れたブラウスを肌に張り付かせ佇んでいる少女に声を掛けた。

