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親愛なるご主人さま
第19章 慎一郎

慎一郎は双葉パーキングエリアに止めた車から降りて背筋を伸ばし、トイレを済ませ、売店に寄って道中運転しながら空腹を抑えようとパンと缶コーヒーを買った。おそらくK夫妻屋敷のパーティー会場に着くころには料理など食い尽くされているだろうと思った。左手首のロレックスを覗くと、もう8時半を過ぎていた。
足早にパーキングの愛車へと歩む。・・・と、慎一郎のジャガーの近くに若いカップルが車内を見ながら興奮した口調で何か話をしている。男の方は髪が茶色で遊び人風だ。
「あのぅ・・何か?」
慎一郎が背後から声を掛けた。
「あっ、すみません!この車のドライバーさんですかぁ?」
男は屈託のない笑顔で振り向く。眉も茶色染めている。
「うん」
「いやぁ~、Eタイプのクーペでこのクリームのボディカラーって最高珍しいですよね!日本じゃ数台のレジェンドカーでしょー?」
「ああ、まあね。でも71年の製造でオンボロだよ」
「いや、いや、見たところ足回りやステアリングもチューンし直して、メンテばっちりですよね。71年ってことはシリーズ2すか?・・・」
「いやシリーズ3だ。エンジンはV型12気筒で・・・まぁレアなジャガーなので大事に乗っているよ」
車好きの慎一郎はついつい愛車自慢したくなる。だが今は一刻も早く出発したい。
「そうかV12でシングルカムっすね、タイヤは・・・」
「あぁ御免、急ぐので、失敬」
慎一郎はポケットからキーを取り出しドアを開けた。
「あ~すいませ~ん。あのぉ写真を。1枚だけでも撮らせてくれませんかぁ?記念にぃ」
今度はデジカメを持ってる女の方が甘える声で言ってきた。
歳は18~9ぐらいだろう。
「うん。じゃ、急いでね」
「すみません。ありがとうございます。この子、レアな外車の写真コレクターなんですよ。ナンバーは隠しますから」
「頼むよ」
「あざぁ~す!」
悪い連中じゃなさそうだ。慎一郎は彼女がフラッシュを焚いて撮るまで待ってやった。
「お急ぎの所すいませんでしたぁ。あの・・これ、お礼にどうぞ、飲んでください」
女は紙コップを出し、持っていたボトルから湯気が立つコーヒーを注いだ。
「アタシ、こう見えてもコーヒーバリスタなんですよ。そんなまずい缶コーヒーなんて飲まない方がいいですよ。はい、どーぞ」

