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親愛なるご主人さま
第19章 慎一郎

女は慎一郎が手に持っている缶コーヒーを一瞥し、注いだ紙コップに蓋をして慎一郎に渡した。冷たい手先が温まり香りが鼻をくすぐる。
「へぇー、コーヒーの専門家なの?確かにいい香りで美味しそうだぁ」
実は慎一郎は大のコーヒー好きで、自分で豆を挽いて1日3、4杯飲むこともあり、缶コーヒーなどめったに買わない。
「すみませんでした。お急ぎのところ引き止めちゃって、このEタイプに乗せる彼女を迎えに行くんでしょ?」
「えっ?なんでそれを知ってるの?・・・」
「だってさぁ、ほら、助手席に綺麗な花束」
男が窓ガラス越しにバラとシクラメンを合わせた花束を指差した。
「ぁ、そっかぁ」
慎一郎は苦笑しながら乗り込んでイグニッションキーを回した。
ジャガーEタイプクーペは気持ちよくエンジンが掛かった。冷えた空気に白い排気が上がる。
「すみませんでした。じゃぁ、お気をつけて」
「さよなら」
「メリ~クリスマ~スぅ~、冷めないうちに飲んでね、私のコーヒー、ウフフ」
下りの中央高速はようやく空き始め、50キロ速度規制は解かれていた。
(さぁて、菜穂子が待ってる・・・道草食ったなぁ・・急がなきゃ・・)
菜穂子を思い、裸体が脳裏に浮かび慎一郎の股間がまた固くなった。
慎一郎はあんパンをかじりながら合流車線でアクセルを踏みこんだ。まだフロントガラスにポツポツ落ちる雨を間欠ワイパーで掃いながらエアコンのスイッチを入れると暖かい空気が足元から上がり、さっきの女が注いでくれたコーヒーのいい香りが車内いっぱいに広がって慎一郎の鼻をくすぐった。
蓋を開けて一口飲んだ。熱い苦味が空腹に染みるように下っていく・・・
その刹那、
「ぅううっ!」
慎一郎はハンドルから両手を離し、激痛が走る喉と胃を掴もうとした。目を見開いたが視界が真っ黒になってアクセルを踏みこんだまま意識を失った----------。

