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親愛なるご主人さま
第23章 旅立ち

「うん。まぁな・・・じゃ、俺が車出すよ。菜穂子おいで。軽井沢辺りで落とそうかな・・・・・とにかく急ごう。“X”がここに来る前に」
かくして出発の時がきた。しかし、菜穂子にとって、また圭吾、玲子、細井の3人にとっても、これは悲しい過去との決別なのか、淫蕩や危機からの逃亡か、自由への旅立ちなのか・・・わからないままだった・・・
「せめてお別れに、このぐらいのプレゼントはさせて・・・」
玲子はニットワンピースの薄着姿の菜穂子に自分が大事にしているお気に入りのコートを羽織らせた。菜穂子には2サイズも大きく、すっぽり収まって少し滑稽にも見えた。
「暖かいわ。ありがとう奥様。お元気でね・・・」
「菜・・穂・・・・・・・」
玲子は込み上げてくる感情で言葉にならなかった。
こんな玲子を見るのは、菜穂子はもちろんのこと圭吾も細井も初めてだった。
「プレゼントといえば、これ、記念に持っていくか? 慎一郎君に渡す予定だったんだが・・・」
圭吾が少しためらい気味に差し出してから恥じたような顔をした。
それは中央に金属製の鍵穴がある瑪瑙(めのう)色の重厚な革製カバーの本、というより箱のようなものであった。
「記念に~?」
そう言う菜穂子の目には圭吾への蔑みさえ含んでいるように圭吾は思った。
「覚えてるか?10月ごろ私が一眼レフ使って撮影した菜穂子のエロ可愛い写真・・・それと例の貞操具を開ける鍵が入っていてね・・」
菜穂子は圭吾が説明し終える前に首を左右に振った。
「K様。いえ、圭吾さん。思い出はこのお屋敷の中に閉じ込めておいてください」
優しい口調でそう言うと玄関ロビーの重い扉を開け屋外へ歩み出た。
雪混じりの北風が吹きつける。菜穂子はコートの襟を立てながら顔を上げ、灰色の空を睨むように仰いだ。

