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親愛なるご主人さま
第23章 旅立ち

 『・・・同時にそれは菜穂子さんを取り巻く“人々”が菜穂子さんにどう接するかも、自由・・・』と自分で言っておきながら、もしかしたら千載一遇の獲物を俺は取り逃がしたのかも知れない・・・あの時、何とでも言いようがあったはずだ。隙を見てこの車に無理やり菜穂子を詰め込み逃亡することも出来たのではないか・・・

 あるいは梶篠夫妻と結託して菜穂子を拉致して、どこかに隠し、三人で共有の性奴隷にする手もあった。それでも良かったかも・・・・結局、俺は”X社”という組織に縛られ、自分の人生をつまらなくしているのか・・・・そのもう一方で、一馬自身も分からなくなって混乱していることがあった。

 香月慎一郎の死を告げ、契約破棄となったあとの菜穂子の冷めた妙な落ち着きぶりには驚いた。

 牝奴隷から普通の“女”に戻って自立してゆく菜穂子を見て、一馬はサディストとしてではなく普通に“男”として“女”の菜穂子にガラにもなく惹かれてしまったのかも知れないと思った。
 しかし今朝の菜穂子の行動の中で、一馬がひとつだけ見逃さなかったことがあった。服を着る時だ。菜穂子は首輪と鎖を引きちぎる様に外したが、ラビアのピアスリングだけは外さなかった!

 一馬はそれを取り付けた施術の場には居合わせなかったが、その道のオーソリティである医師の“J”によって取り付けられたピアスリングはまだ仮のもので、慎一郎のもとに納品されたら、無毛の股間に“SK”のイニシャルのタトゥーが刻印されると共に正式なリングが取り付けられるのだと圭吾から聞いていた。

 だからあの時、パンティを穿かずオープンクロッチのパンストを穿いて・・・

 そのあと『思い出はこのお屋敷の中に閉じ込めておいてください』と言っていたが、菜穂子の中にはまだ慎一郎の死を受け入れ難い思いと、淫靡なマゾ牝奴隷の血が残っているのでは?・・・



 そうだ! そういえば、あの服を身に着けるときの菜穂子の様子は圭吾も見ていたはずだ。そして菜穂子は圭吾の車に乗り・・・

(ん? そうか!・・・俺は梶篠さんにうまく嵌められた!?・・・・)


 ハタとそのことに気づいて一馬は赤信号を見逃し、危うく急ブレーキを掛けて止まった。

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