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親愛なるご主人さま
第24章 野獣 対 女豹

 「フフ・・・そうかコーヒーか、首尾よくできたわけだな」

 「ええ。でも危ない橋わたったんですから、頼みますよ。満額報酬!」

 「ん? 報酬?」

 「ちょっと!約束っすよ!俺ら二人、後がねーんだ」

 「ああ・・わかっている。ガタガタ言うな!今どこにいるんだ?」

 「高速降りて甲府っす。2千万ですよね!!」

 「ん?甲府?2千」

 「はい。今夜これから、そちらに受け取りに行きますよ」

 「まて、こっちに来られてはまずい。いずれにせよ明日だ。東京に戻っておけ、手渡す」

 「証拠残さずターゲットやったんすから、満額現金手渡しですね!」

 「おう。心配すな!ご苦労だったな」

 ガチャン。ツーツーツーという電話を切った音とともに録音はそこで終わった。

 ラジカセのSTOPボタンを押す玲子の指は震え、目は吊り上がり瞳が青白く光った。自分の体内からふつふつと沸き上がる冷たい怒りの炎を感じた。

 玲子は体に怒りのパワーをアイドリングさせつつ、頭脳は冷静に動いた。カラのテープを用意して先ほどの録音テープをダビングして机に入れた。




 遠くからパラパラパラ・・という音が聞こえた。屋外だ。徐々に近づいて屋敷の上空でバラバラと大音量で響いた。

 ヘリコプターの音だった。


 「ヘリで来たか・・・随分早いお出ましだね・・」

 つぶやくと玲子はレザーの手袋をはめながら腕時計を見た。圭吾や菜穂子が出て行ってから15分ほどしか経っていなかった。

 屋敷の南側の広い庭園に“X”が操縦するヘリが舞い降りた。庭の木々がヘリの風で揺れ、残雪が高く舞った。

 数分後、玄関の方から君江の悲鳴が聞こえた。玲子が監視カメラのモニターを除くと、立ちすくむ君江の傍で房之介が血を流して倒れている。黒いコートを着た“X”が制止する君江を右手で突き飛ばし、屋敷の中に入ってくるのが見えた。


 玲子は執務室から応接室のソファに移り、悠然と煙草をくわえて火を点けた。
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