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親愛なるご主人さま
第24章 野獣 対 女豹

 「このアマッが!」

 花瓶が身体に当たって水を浴びても“X”はたじろぎもせず間を詰めてきた。

 玲子は接近戦では不利と察し、体を翻し廊下に出る。

 廊下を走り、広い地下広間への階段を降りようとした。“X”が鬼の形相で追いかける。

 「パキッ」

 走る玲子の右足のヒールの踵が折れてバランスを崩し倒れた。そこへ“X”が巨体を投げ、覆い被さり、もみ合いになったまま二人とも階段を転げ落ちた。

 “X“が両手で玲子の首を掴んでのしかかり、万力のような力で首を絞めてくる。

 「ぅうう・・」

 玲子はピンヒールを履いていたことを悔やんだ。しかし左足から脱げたピンヒール
を右手で掴むと苦し紛れに“X”の顔に2回、3回と叩きつけた。

 バキッ!バキ、ガキン!

 ヒールの踵が“X“のサングラスと前歯を砕いて血と一緒に飛び散った。

 「ぐっあー、くそっ!」

 玲子は“X“の下から這い出し、床の上を回転して逃れ出て、広間の中に入った。昨夜のオークションパーティーの会場になった広間だ。照明が点いてない薄暗い広間の中でとっさに何か闘う武器になるようなモノがないか探す。

 血を流し、“X”が呻きながら迫ってきた。

 「おい動くな。ここまでだ」

 “X”の手には拳銃が握られていた。

 玲子は銃口を向けられて壁際に追い詰められた。

(コイツの銃は本物か?・・・だがここで屈するわけにはいかない)

 玲子の背中に冷たい汗が流れた。

 「ねぇ、いいの?こんな所で私と闘っていて?今頃さぁ、菜穂子と圭吾さんがぁ、さっきのテープの複製を持って山梨県警に向かっているのよ」

 「ふん。ハイヒール攻撃のあとはハッタリか? サツにタレ込んでも構わんさ。警視庁にも政府にも俺のお客さんはいる。俺がサツにしょっ引かれて、色々吐いたら困るお偉いさんが少なからずいるのさ。おい!壁に向かって立って両手を上げろ!」

 歯が折れた口から垂れる血を飛ばしながら“X”が言った。

 「だったら、あんた、なおさらヤバくない?お偉いさんたちは自分達の保身のためにトカゲのしっぽのあんたを始末するだろうよ。フフフ・・」



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