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親愛なるご主人さま
第25章 川辺の雪

昨夜から朝の降雪で遺体の周りは、近づいた第一発見者の少年と犬の足跡が残っているだけだ。河川敷は一面雪だった。
「どっかで殺られてからここに運ばれたんでしょ」
「でも車のタイヤ痕なし!」
「しかも遺体に外傷がない・・」
「自殺やな?・・・・」
「うーん。こりゃ、持って帰って解剖しかないですよ」
鑑識課員は現場の写真を撮り、まったく見つからない遺留品の代わりに遺体の周囲の雪を少しかき集め、保管箱にいれた。そして凍った遺体をブルーシートに包み込んだ。
立ち入り禁止の立て札と黄色いテープの外側では、早朝から一体何事かと近所から野次馬たちが集まって不安そうに見ていた。事件など滅多にない静かで平和な農村地帯だ。
「オーイ、やっし~」
「あっ、ヤマさん」
「遅くなって、すまん」
「いえ、非番なのにすみません」
「署長から言われてよー。人手不足はしょうがねー」
後から現場に到着したのはベテラン刑事の山田健介だ。
「あれ?もう鑑識は、仏さん持っていくの?」
「ええ、ないない尽くしですわ。外傷なし、持ち物、遺留品なし、争った形跡なし、遺書も足跡もない・・」
「残ってんの雪だけか?」
「はい。その雪も遺体の下の雪とかは何か鑑定に役立つかもと思い、箱に詰めて鑑識が持っていきますが・・・ここで見た限りでは・・・ただの雪です」
「うーん。そうか、あっ、ちょっと見せてくれ」
山田は車に運ぼうとする鑑識課員に声をかけブルーシートをめくって遺体を見た。
「ほう。きれいだ。若いなこの女。あれ?アソコの毛がねーぞ。イヒヒ」
「ヤマさん、どこ見てんすか!」
「なぁ、やっしー、この冷たい雪の中で自分から裸になって自殺ってできると思うか?」
「いやぁー、それは・・・外傷無いわけだし、あとは大量の睡眠薬とか飲んで・・・でしょうね。でも薬物の容器瓶とか、ハンドバッグや袋とか・・・かなり広範囲に調べても落ちてないんですよ」
「科捜研で“開いて”(解剖)もらうしかないか?・・・」
「ええ、しっかし、仏さんの身元がわかんないですからね~」

