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親愛なるご主人さま
第25章 川辺の雪

「例えば雪山とかで凍死した人の肌っていうのは、黒ずんだ紫色に変色するだろう?あの女は手足の先に多少の凍傷があったらしいが・・・二人とも現場で女のカラダ見たろ?」
「うん、そう言えば、変色なくて、雪みたいに白くて綺麗だったなぁ」
「明日から矢島くんが調べてくれた5件のご家族が来て身元確認が始まるんだが、それで身元が割れるか否かに拘わらず、検視は続けてやって、犯罪性が高い場合には司法解剖もあるらしい。家族の承諾なしにな」
因みに検視とは、主に事故死などの突発的な要因で亡くなられた人に関して、検察官や司法警察員(認定された警察職員)によって身元の確認や犯罪性の有無などを調べるために行われる手続きだ。検視が行われた死亡のことを「変死」や「異状死」と言う。検視によって犯罪性があると判断された場合、警察は司法解剖を鑑定嘱託医師に依頼できるようになり、その際の司法解剖の実施については遺族であっても拒否はできない。また、検視によって犯罪性がないと判断された場合であっても死因の究明や公衆衛生の観点から解剖が行われることがあるが、その際も状況によっては遺族の承諾を得ずに解剖が実施されることもある。なお、検視を経ずに変死(異状死)された人を葬ってしまうと「変死者密葬罪」に問われてしまう可能性があるのだ。
「検視によっては、解剖もしながら、あの仏さんに関係性のある身内を探してゆくわけですな?」
「そうだ。だが例えば、女の家族が現れ、身元が分かれば解剖をせずとも、家に遺書が残ってたとか、生前の様子から『自殺』で決着ってこともあり得る。でも一方で、万が一だが、身内の犯行ってこともあり得るわけだ」
「うーん、とにかくあの女が所持品なし、外傷なしのスッポンポンで死んでたってのが、全てを難しくしているなぁ」
―――― 翌日
行方不明者のリストから矢島がピックアップした家族や親しい友人らが県警本部の安置所を訪れた。しかし、いずれの者も遺体の顔を見て首を横に振った。もしかしたら自分の妻や娘や兄弟姉妹ではないかと不安な期待を持ってやって来たが、空振りにホッとしたような、同時に落胆したような複雑な心境を一様に見せた。
その日の午後遅く、山田と矢島のベテランと若手コンビの両刑事は小出署の署長室に呼ばれた。

