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親愛なるご主人さま
第27章 死体と寝る女

「あっ!こ、この見事な手裁き・・・あの人だわ・・・違いない・・Jだ!・・・」
レイラの元夫、ドクターJこと村田次郎の手による施術に違いないと、レイラは確信して思わず声を発した。
医者同士であり、互いに変質的な性癖を持つサディスト夫婦であった。2年前に離婚したのは簡単に言えば性癖の不一致である。矛盾しているように思えるが、同じサディストでも癖は異なるものだ。共有の性玩具奴隷を夫婦で保有したことがあったが、次郎は気に入った女をマゾに仕立て上げると溺愛してしまうことがあった。その末には、より自分の好みの理想形に近づけるため、神の手とまで言われた整形外科医の腕を発揮し、身体の部位を、あるいは顔形をも変えてゆくことに喜びを感じていた。言わば自分が造った作品、(あるいは人形と言ってもいい)に惚れ込んでしまうのだった。レイラは次郎がそうして創り上げてゆく愛奴人形に嫉妬するわけではなかった。しかしレイラのサド思考は対象となる目をつけたターゲット達(矢島もその一人だ)に向けて網を張り、罠を仕掛け、追い詰めて、狂わせ、もがき苦しませて、支配することに喜びを感じるサディズムの持ち主だ。支配と従属。その極地にあるのが「死」であり、レイラ独特の死体へのフェチズムがあった。二人の性癖は、はたから見れば大して違わない変質性だが、当人にしてみれば大に異なるもので、価値観の相違とも言えるのだった。
そのような二人でも、互いに持つ異形のサディズムを反目させることはなく、むしろ共感することもあった。外科医としてもリスペクトし合っていた。だが、『ワシら一緒に夫婦であり続ける必要はないよなぁ』という20歳年上の夫の提案にレイラはあっさりと受け入れた。
『世の中には変わった夫婦が多くいるけど、私達は最たる変態夫婦だったわね』レイラは自嘲とも自尊ともつかない言葉で言ったものだ。
10年近い夫婦生活でお互いの“性的興奮のツボ”を知りながらふたりの性交渉は一度たりともなかった。だが不満足もなかった。レイラは元夫と一緒に過ごした変質的な夫婦の日々を振り返りながら思いを馳せた。
目の前に横たわる「美穂」と名付けたこの女と次郎が関わったのは私と別れたあとか・・? それ以前かもしれない・・・?

