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親愛なるご主人さま
第28章 手紙


 「ありゃゃ・・・だめだぁこりゃ」


 「なんだ、こりゃ!油性ペンで書いてくれてれば・・読めたのに・・・」


 山田が天を仰ぎ、矢島が嘆いた。

 便箋の文字は雪水に濡れ、青い水性インクが滲んで、何が書いてあるのかさっぱり読めなかった。ただおそらく、小さな字で沢山何か綴ってあったのであろうことは想像できた。

 この場に全裸で横たわって凍死したあの若い女が綴った手紙か遺書か?・・・それも定かにはならない。

 
「とりあえず写真に撮って、保管袋には入れて持って帰ろう。そろそろ日も暮れる、引き上げようや」



 山田は矢島に命じ、諦めて腰を上げ、車に向かおうと歩き出した時、背後から矢島の唸るような声が聞こえた。




 「ヤマさん・・・・最後の1行だけ・・読めます・・・」



 「えっ?」

 

 矢島は声に出して読もうとしたが、こみ上げてくる切なさで詰まり、涙が便箋に落ちた。


 山田は嗚咽を抑え震える矢島の手から濡れた便箋を取り上げた。



 3枚目の便箋の最後の一行はインクが滲まずに読むことができた。











 “おやすみなさい。親愛なるご主人様。奴隷 菜穂子”


 
 ・・・・と書かれていた。





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