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泥だらけのお姫様
第7章 それはまるで儚いシャボン玉
***
それから少しして、出張だからと言って、優祐は1泊2日だけした。嘘だとすぐに気づいたけれど、私が今さら言えたことじゃない。
2日目の夜。私が仕事から帰ると優祐はリビングでお酒を呑んでいた。強いお酒。思い出すのはあの日のこと。私が狂わせた運命の日。
「花……」
そう言うと涙を溢した。
「その人のこと……本気で好きだったの?」
夫が不倫した奥さんのセリフではなかった。けれど、今なら優祐の気持ちが痛いほどに分かる。私も将さんと──。このままじゃいられない。タイムリミットは近づいている。優希が戻ってくる。都会にもう満足したからとやりたいことを見つけたからと帰ってきてからこっちの専門学校に通って、手に職をつけるらしい。
「えっ……?」
優祐は、驚いたように顔をあげて、私はそんな優祐に優しく唇を重ねる。
「もう怒らない……から。……私はずっと、あなたのこと愛してるわ……。だから、忘れましょう。悲しさを分け合いましょう」
「……ごめん、本気で……好きになってた……花」
優祐は、花、花……と呼びながら私を優しく抱いた。二度目のセックス。私の頭もおかしくて、決して呼びはしなかったものの、優祐が優しく触れる指先を舌を……将さんと重ねた。
不倫、その関係性は基本的に、いつか終わりが来る。そう、それはまるで儚いシャボン玉。
だからこそ一緒にいれるうちに精一杯、好きでいよう。後悔のないように愛そう。一般論なんて糞くらえだ。それが不倫なのだとしても、こんなにも愛せる人に出逢える確率は……ごく僅かなのだから。
好きな人がただ結婚していただけ。それだけのこと。綺麗事ばかり並べて幸せを逃す……それこそ馬鹿みたいなことだとあの頃の私に教えてあげたいな……と、そんなことを優祐に抱かれながらぼんやりと考えた。
夫も好きだけど彼も好き……
奥さんも好きだけど彼女も好き……
ただ、それだけのこと。
ただ、それだけのこと。
今の私だからこそ思えること。