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泥だらけのお姫様
第8章 泥だらけのお姫様


          ***

 半年後──。優希は専門学校1年生になった。19歳。

「やった……! 濡れてない!」

 優希が帰ってきてから、少しずつおねしょの回数は減った。

「んっ……おはよう」

 優希が眠気眼に目を擦る。

「母さん……オムツ……おっ! やったじゃん! これで10日間連続? オムツ卒業じゃね?」

 朝は優希が私のおねしょ確認をする。

「……ありがと。優希のおかげだね。ご飯、作るね」

「今日、日曜日~もうちょっとゆっくりしてよっ!」

 ぎゅーっ。

 人から見たらおかしな関係なのだと思うし、言えない秘密だけれど、優希が帰ってきてから、薬も減り、私のメンタルも安定し、パートにも出られるようになった。学生の頃に働いていた飲食店の系列店で働いている。

 こんな風に息子に支えられる日が来るなんて、あの頃、想像もつかなかった。生きてて良かった。素直にそう思える。

 将さんの子どもは妊娠しなかったけれど、これでいい。この方がいい。自分の世話で精一杯だし、優希とのこの関係が崩れていたかもしれないと思うとゾッとする。将さんのことは墓場まで持っていく覚悟だ。連絡がきても、多分、もう会うことはないと思うし、私が不倫をすることもないと思う。あれが最初で最後。不倫は何も生まないんだと自分を壊して私は気づいた。けれど、人のことを否定する気はない。

 私はいくつの過ちを犯したのだろうか? だけど後悔はしていない。だって、こんなにも愛おしい息子、絶対に切れない絆。好きな人──がいるのだから。

 私はこれから紡いでいく。私のたった一人の息子と共にもう一度、人生を歩もう──。

 優希が私に唇を重ねる。

 お姫様がキレイだなんて誰が決めたのだろうか。

 私は泥だらけのお姫様。

 優希は誰にも……渡さない──。



fin.
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