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降りしきる黄金の雫は
第5章 5 金木犀はこう言った
「だ、だめ」
彼は僕の両手首をつかんでいるはずなのに、太腿と下腹部を撫でられているような感覚がある。
「ど、どうして? どうなってるの?」
不思議がっている僕に彼は息を吹きかけ、「枝が四本あるのを知らなかったか?」と当然だという表情で言う。
「腕が――4本……」
さすがに脱出を諦めた。思わず涙をこぼしてしまう。――男なのに情けない。
それに気づいた金木犀の精が頬を伝う涙を舐めとった。
「苦痛なのか? 苦痛は生成を妨げる。これでは与えても効果がないな」
彼は僕を解放してふわっと座る。
「あ、ありがとう」
「いや、礼はこちらがしたかったのだ。受け入れがたいようだな」
「すみません。こういうことは男性と考えたことがありませんので」
「雌であればよいのか」
「え、あ、僕はあ、あのこういう経験自体ないのでちょっとはっきり言えませんが、普通は男と女で――」
言いかけて、僕は彼を傷つけるかもしれないと思い口をつぐむ。
金木犀の木は雌雄異株で雄と雌の木に分かれる。しかしなぜか日本には雄の木しかないのだ。雌の木を持ってきても雄に変わってしまうという話も聞く。つまり彼は雌の木には会ったことがないだろう。
「すみません。金木犀の精さん」
「何を謝るのだ」
「いえ、その……」
「お前が思うような感傷は私にはない。ただお前からもらったものをお前にも与えようとしただけだ」
「ありがとうございます。あの、いつまでその姿でいられるんですか?」
「さあな。ずっとこういう姿でもない。その庭とこの部屋くらいにしかこの姿を現すことはできないようだ。来るなというならもう来ないようにしよう」
「え、そ、そんな。そんなつもりじゃないんです」
彼が去ろうとすると思うと僕は強い寂寥感を覚えた。不思議で美しく尊大な金木犀の精。
「行かないでください」
「ふむ。ではたまに出てこよう。この身体もお前も興味深いしな」
「よかった……」
彼は僕の両手首をつかんでいるはずなのに、太腿と下腹部を撫でられているような感覚がある。
「ど、どうして? どうなってるの?」
不思議がっている僕に彼は息を吹きかけ、「枝が四本あるのを知らなかったか?」と当然だという表情で言う。
「腕が――4本……」
さすがに脱出を諦めた。思わず涙をこぼしてしまう。――男なのに情けない。
それに気づいた金木犀の精が頬を伝う涙を舐めとった。
「苦痛なのか? 苦痛は生成を妨げる。これでは与えても効果がないな」
彼は僕を解放してふわっと座る。
「あ、ありがとう」
「いや、礼はこちらがしたかったのだ。受け入れがたいようだな」
「すみません。こういうことは男性と考えたことがありませんので」
「雌であればよいのか」
「え、あ、僕はあ、あのこういう経験自体ないのでちょっとはっきり言えませんが、普通は男と女で――」
言いかけて、僕は彼を傷つけるかもしれないと思い口をつぐむ。
金木犀の木は雌雄異株で雄と雌の木に分かれる。しかしなぜか日本には雄の木しかないのだ。雌の木を持ってきても雄に変わってしまうという話も聞く。つまり彼は雌の木には会ったことがないだろう。
「すみません。金木犀の精さん」
「何を謝るのだ」
「いえ、その……」
「お前が思うような感傷は私にはない。ただお前からもらったものをお前にも与えようとしただけだ」
「ありがとうございます。あの、いつまでその姿でいられるんですか?」
「さあな。ずっとこういう姿でもない。その庭とこの部屋くらいにしかこの姿を現すことはできないようだ。来るなというならもう来ないようにしよう」
「え、そ、そんな。そんなつもりじゃないんです」
彼が去ろうとすると思うと僕は強い寂寥感を覚えた。不思議で美しく尊大な金木犀の精。
「行かないでください」
「ふむ。ではたまに出てこよう。この身体もお前も興味深いしな」
「よかった……」