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狼に囚われた姫君の閨房録
第38章 鶴ヶ城の悲劇(中)

「すみれはおらぬか?」
容保様が透き廊から私を呼んだ。
暖かい陽が射す午後だ。私は弓の稽古をしていた。
「はい、容保様。すみれはこちらにございます」
箙を肩にかけたまま、私が駆け寄り、片膝をつくと、
「悪い知らせだ」
容保様の表情は暗かった。
「母成峠で幕軍が負けた」
「えっ?」
早すぎる!一が出陣したのは、一昨日ではないか。
「奥羽列藩と新選組には撤退を命じた。斎藤と鈴木三樹三郎は行方知れずだ」
「行方知れず……」
頭の中が真っ白になった。旧幕府軍の戦力はおよそ八百人。新政府軍は七千人。
勝てる見込みはないと分かっていた。
一も生きては戻れないと言った。戦場で消息不明とは、死を意味するのだ。
「しっかりしろ!腑抜けている暇はないぞ!!」
上から容保様の怒声が降ってきた。
我に返った私の耳に、陣太鼓と半鐘が響いた。大手門に人馬のざわめきもする。
「あれは……」
「家臣の家族らを城に集めた。城を枕に討ち死にの覚悟だ。籠城するぞ」
「……籠城を!」
「すみれ、お前は女たちの采配をしろ。俺は指揮官として打って出る」
「かしこまりました」
私は唇を噛み締め、立ち上がった。いよいよ、最終決戦である!
「このすみれがいる限り、お城は落としませぬ」
容保様が透き廊から私を呼んだ。
暖かい陽が射す午後だ。私は弓の稽古をしていた。
「はい、容保様。すみれはこちらにございます」
箙を肩にかけたまま、私が駆け寄り、片膝をつくと、
「悪い知らせだ」
容保様の表情は暗かった。
「母成峠で幕軍が負けた」
「えっ?」
早すぎる!一が出陣したのは、一昨日ではないか。
「奥羽列藩と新選組には撤退を命じた。斎藤と鈴木三樹三郎は行方知れずだ」
「行方知れず……」
頭の中が真っ白になった。旧幕府軍の戦力はおよそ八百人。新政府軍は七千人。
勝てる見込みはないと分かっていた。
一も生きては戻れないと言った。戦場で消息不明とは、死を意味するのだ。
「しっかりしろ!腑抜けている暇はないぞ!!」
上から容保様の怒声が降ってきた。
我に返った私の耳に、陣太鼓と半鐘が響いた。大手門に人馬のざわめきもする。
「あれは……」
「家臣の家族らを城に集めた。城を枕に討ち死にの覚悟だ。籠城するぞ」
「……籠城を!」
「すみれ、お前は女たちの采配をしろ。俺は指揮官として打って出る」
「かしこまりました」
私は唇を噛み締め、立ち上がった。いよいよ、最終決戦である!
「このすみれがいる限り、お城は落としませぬ」

