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狼に囚われた姫君の閨房録
第7章 大阪力士事件
六月になった。
すっかり、緑が濃い季節である。茜空に千切れ雲が浮かんでいる。
浪士組のお供で、私は大阪にやってきた。
夕暮れ時の街中で客引きの声がする。すれ違うのがやっとなほど、大通りは混んでいた。
「小娘、船遊びをしたくはないか?」
船着場で、芹沢鴨は私を振り返った。
「屋形船に乗ったことはあるまい。川で夕涼みしながら、食う飯はうまいぞ」
大阪奉行所からの依頼は解決してしまった。早めに仕事が終わり、芹沢鴨は機嫌がいい。
「屋形船に乗ったことはありませんが……」
私は養父の勇を窺った。芹沢鴨には気をつけるように歳三に言われたからだが、
「いいではないか。俺と敬助は奉行所に事後報告に行くが、楽しむといい」
根っからのお人好しの父は笑顔だった。
「暑気払いにはいいかと」
山南敬助もにこやかに言う。この人の場合は作り笑いだけど……
「斎藤くん、沖田くん、永倉くん、すみれさんを頼みましたよ」
何かあったら、芹沢を斬れ。メガネの奥の目はそう言っていた。
「承知」
「わかりました」
「おう、任せとけって」
一、総司、新八はそれぞれ答えた。山南の意図するところは、汲んでいるようだ。
芹沢鴨が豪快に笑った。
「決まったな。船は予約してある。盛り上がるぞ!」
そんなことだと思った。用意のいいことだ。
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