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狼に囚われた姫君の閨房録
第7章 大阪力士事件
「どうした? 船に酔ったのか?」
船に乗って半刻(一時間)が経った。食事もお酒もかなり進んだ頃、一が私に言った。
「いえ……大事ござりません」
私は強がったが、体調が悪いのは一目瞭然だろう。食が進まないし、吐き気もする。
「無理はするな」
ぐらぐら揺れる私の肩を、一は抱えた。
総司が手拭いを懐から出し、窓を開けた。川の流れにひたして絞った手拭いを、私の額に当てた。
ひんやりして、心地よい。
「少し、火照ってるなあ。お酒の匂いに酔ったんだね」
そういうと、総司は上座の芹沢鴨を見た。
「芹沢さん、急病人です。船をつけてもらってもいいですか?」
芹沢は新見錦や平山五郎らと酒をあおり、泥酔状態だった。
目は充血して、顔が真っ赤だ。吐く息が臭くて、よけいに気分が悪くなった。ただでさえ、船酔いしているのに。
芹沢鴨は新見に目で合図した。
心得て、新見錦が戸を開けて船頭に伝える。
「おい。病人だそうだ。岸につけろ」
「へえ」
返事のあと、船が曲がる感覚があって、速度を落として岸に着くのがわかった。
「着きましたぜ、お客さんたち。新天地でいいんですかい?」
「かまわん。我らも、降りるとしよう」
あっさりと言う芹沢に、
「局長がお付き合いくださらずとも。すみれは我らが宿まで同道いたします。局長たちは酒宴をお続けください」
いささか慌てて、一が言った。
「そうもいくまい。近藤くんの可愛い娘だ。ほっておいたと思われては、叶わん」
「大丈夫だって。俺たちがついてるから、芹沢さんは楽しんでてくれって」
新八が朗らかに言うと、平山五郎の顔色が変わった。
「なんだよ、永倉。てめえ、芹沢先生に一緒にこられちゃ、困ることあんのかよ?」
「そんなこと言ってねえだろうが。親切に言ってやってるだけだろ!」
「じゃあ、かまわねえよな?」
睨み合う二人に、総司が割って入った。二人とも、腰に手がかかっていたのだ。
「そこまで。新八兄さん、局長が付き合うって言うんだからさ。それでいいじゃない」
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