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あなたがそれを望むなら
第2章 失意の中で
月曜日。
今日はどんな顔して松野さんに会えばいいのか…。
いつもなら軽い挨拶ぐらいはしてたのだろうけど、以前と今では心持ちが違う。
以前の俺の対応が思い出せない。
あの日借りたマフラーは鞄の中に忍ばせてある。
周りの人間に誤解されないように隙を見て返さねぇと。
俺は松野さんのスマホ番号を知らない。
会社の携帯には登録されてるが、仕事用のスマホを私情に使うのは気が引けた。
今の俺、以前のように松野さんと接しられるのだろうかと、一抹の不安を覚えていると。
「えー、今日から三日間、本社の方が視察にお見えになる」
朝のミーティングで、部長がそう告げてきた。
うっわ、視察って…、最悪だな。
本社の視察というのは、傘下に入っている支社の仕事内容、社員の勤務態度を見る抜き打ちテストのようなもの。
視察期間中は部下の失態を見せないようにと上司たちはピリピリしている。
現にミーティングをしている部長の顔もイライラで引きつっている。
あー、ただでさえ考えなきゃならん事があるのに、今日に限って視察とはね。
どうせ部下が何かやらかしたら中堅の立場の俺の責任なるんだろうな。
教育がなってないとか、監督不行届きとかさ。
「………。」
俺のデスクと松野さんのデスクはかなり離れている。
この時ばかりは距離があって良かったと思った。
こんなピリピリした期間中に松野さんの顔なんてさすがに見れない。