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あなたがそれを望むなら
第2章 失意の中で
その日は本社から視察がくると言うことで、みんないつもよりきびきびと仕事に徹している。
いつもそれぐらいやる気があれば俺も助かるんだがね。

視察の人間はいつ、何時に来るのかわからない。
どんな出で立ちで来るのかもわからず、社員全員一瞬の気も抜けない。

「………」

俺もタブレットに向かい仕事をしているが、タブレット越しに遠くにいる松野さんを目で追ってしまっている。



俺はバカだ。
こんな大事な期間だと言うのに、松野さんばかりを目で追ってしまっている。
俺、一体どうしちまったんだろう。

松野さんに取ってあの日の事は取るに足らない事なのだろうか?
今日になっても松野さんは俺の方を一切見ないし話しかけても来ない。
気にしてるのは俺だけのような気がする。

いや、俺がいちいち過剰に反応し過ぎてるのか?

松野さんはいつもと変わらずに働いている。
まだ勤務経験が浅い彼女の仕事はコピーを取ったり、書類を纏めたり、先輩や上司にお茶を淹れたりしてるだけ。

そう言えば、俺にいつもお茶を淹れてくれていたのも松野さんだったな。

そんなの今まで意識したことなかったけど、松野さんはいつもニコニコしてる。
「お疲れ様です」って、労いの言葉を言いながら美味しいお茶を淹れてくれていたな。

「―――…っ!」

って、仕事中に俺は何を考えてるんだ?
仕事に集中しねぇとミスをしかねない!

しかし、どんなに忘れようとしても、どんなに集中しようとしても松野さんの姿が気になって仕方ない。


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