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あなたがそれを望むなら
第3章 この手を取って






―――――ピンポーン。





―――ガチャ「あれ?佐伯さん!」
「…こんばんわ」








その日の夜、俺は松野さんの部屋に来た。
先日、酔っていたとは言え松野さんの部屋の場所ぐらいは覚えている。
突然の訪問にドアを開けた松野さんは驚いた顔をしていた。
っていうか、ドアを開ける前にモニターや覗き穴から確認しないのか、この人は。
俺が強盗や泥棒だったらどうすんだ?

全く…、危機感のない女だ。

「どうしたんですか?突然」
「あ、これ…」

俺の手には先日借りたマフラーが握られていた。

「え?これの為にわざわざ?」
「うん」
「別にいつでも良かったのに。ありがとうございます」
「お礼を言うのはこっちだよ。お陰で温かかった」

俺は松野さんの性格をよく知ってる。
危機感がないところも、天然なところも、無防備過ぎるところも。
池尻なんかより知ってる。




…そして、松野さんがどれだけお人好しなのかも知ってる。

「良かったら上がって行きませんか?外は寒いから温かいコーヒーでも」
「うん。貰おうかな」

ニコッと笑い俺の手からマフラーを受け取った松野さん。
その笑顔はあまりにも無防備。
そして、ギリギリだった俺の理性や道徳心を破壊するには充分だった。

俺を出迎えてくれた松野さんは、ブルーのパステルカラーのセーターに黒いロングスカート。
コンタクトを外した眼鏡姿。
また松野さんの一面を見れた気がした。

そう、彼女の事を深く知ってるのは俺だ。
俺だけでいいんだ。






―――バタン…。

俺を招き入れた瞬間に部屋のドアが閉まった。





「私も今コーヒー飲んでたところなんです。安物のインスタントコーヒーなんですけど―――――」








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