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あなたがそれを望むなら
第4章 その手の中
足も体も重い。
こんな時にこそエレベーターを使いたいが、どうせ重役や上司に占領されてる。
いつも通り階段を使おうとすると





「佐伯さん」
「……?」





俺の背後から聞こえた女性の声。
どうせ同じ部署の誰かだろうと思い深く考える事なく俺は振り返った。

あー、そう言えば、今は視察期間中だったな。
どうせその類いのクレームか何かか?

「あー、はい?」




振り返った瞬間
俺の名前を呼んだその女性の姿を見た瞬間




「――――あ」




俺の心臓は壊れそうなほど、うるさいほどに高鳴り出す。
俺の背後から声をかけたのは





「ま、松野、さん…」
「…お、おはようございます」
「お、おはよ…」





それは、松野さんだった。
誰もが行き交うロビーで、形式的な挨拶を交わしたが空気は重苦しい。
いや、こんな空気を作る原因になったのは俺のせいなんだが。

「あ、あのさ…」

あぁ、本当にバカだな、俺は。
昨夜のことで松野さんに嫌われても、罵倒されても殴られても文句は言えない。
なのに、松野さんに話しかけてもらえたのがこんなにも嬉しい。

もう、口すら聞いて貰えないと思っていた。
顔も合わせて貰えないと思っていたのに。

口を開いたはいいが、何の言葉も出て来やしない。
そんな俺を見て松野さんが先に口を開いた。

「今少し…、お時間いいですか?」
「え?あぁ…」

恐らく昨日の事だろう。
そうじゃなきゃ松野さんが俺を呼び出す理由なんかないのだから。

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