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おとなりの、ひとづまと。
第1章 家呑みの果て。
 そして、左利きのおれの、夏休みが始まる。
 利き腕の肘を折って迎える夏休みは、絶望的に楽しく無かった。
 内定していたバイトの話も御破算。金も無い、彼女もいない、寂しい夏休みだ。
 ギプスのせいで海は疎か、プールに行く気にもならない。
 最初の一週間は家から一歩も出る事無く時を過ごした。
 夏休みに入って最初の週末、金曜日、夕飯前。
 おれは、いつも通り居間のソファで、だらだらとしていた。観もしないテレビを垂れ流し、自堕落的な生活にどっぷりと浸っていた。
 普段は口煩い母も、利き腕の肘を折ったおれを不憫に思ったのか、部屋で一日中だらけていても文句は言って来なかった。
 
 インターホンが鳴り響く。ふと時計を見た。十八時を少し過ぎていた。
 夕刻に我が家に訪れたのは、隣りの住人だった。
 さくらさんだ。半年ほど前に引っ越して来た。旦那と二人暮らし。年齢は多分三十歳くらいだと思う。
 おれの母とは気が合うらしく、毎週の様に二人でカフェやショッピングに行くほど仲が良かった。
 週末のこの時間帯に来ると言う事は、今晩は我が家で食事をして、また馬鹿みたいに酒を飲んで酔っ払うつもりなんだろう。
 おれの両親とさくらさん夫婦で金を出し合って家呑み。まだ未成年のおれからしてみたら質の悪い酔っ払いを四人も相手にする羽目となるのでいい迷惑だった。
 外で呑んだらいいだろう?と何度か言ったが、家で呑んだ方が安上がりだし、泥酔してもそのまま寝れるから家呑みが最高なんだ、と毎回同じ事を言われあしらわれてしまう。
 さくらさんは、母と談笑しながら居間に来て、テーブルの上に日本酒の一升瓶を置いた。
 そして、おれの隣りに腰掛けて来る。
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