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おとなりの、ひとづまと。
第1章 家呑みの果て。
 おれは、いつも決まって、手早く食事を済ませてから自室へと戻る。
 今晩もそうだった。
 大人同士の会話は、何となく面倒臭いし面白く無い。
 それに大人たちも、子供がいては話したい事も話せないだろうと思い。
 ベッドにごろりと寝転んだ。
 音楽をかけ、時を過ごす。時折、その音楽を超えて大人たちの高笑いが聞こえてくる。
 ごろごろとする。
 利き腕が使え無いため、漫画を読むのもゲームをするのも億劫だった。
 気晴らしのオナニーをする気にもならない。
 友人が、利き腕じゃない方でオナニーしたら、他人にされてるみたいで気持ちがいいと言っていたが、どうやらおれにその性癖は無いらしい。

 時が過ぎる。
 二十三時半、漸く、大人たちは静かになってくれた。
 さくらさんも、そろそろ帰るころだろうと思った。
 唐突に、部屋の扉が開いた。
 おれは反射的にベッドから身体を起こした。
 視線の先には、完全に酔っ払いのさくらさんがいた。
「――は?ちょっと、さくらさん?突然部屋に入って来るとか、デリカシー無さ過ぎなんですけど」
「五月蠅い黙れ、童貞。あたしの辞書にDelicacyという文字は無い」
 デリカシーの発音が妙に良い。全く以て意味は不明。
「うん、で、分かったから、何か用?」
 おれが不機嫌そうにそう告げると、さくらさんは、にんまりと笑みを浮かべて、ベッドへと飛び乗って来た。
 行動が突拍子無さ過ぎて、恐怖しかない。
「おい、翔太、ちょっと耳かせ」
「はあ?何だよ一体?」
「――アンタのお父さんとお母さん、今日、Sex、するってよ」と、さくらさんはセックスだけ妙に良い発音で、そう言った。
 おれはそれを聞き目を見開いた。それと同時に、そんな事マジで聞きたくねえし、と強く思った。
「い、いや、まぁ、だとして、おれにはどうしようも無いけど」
「実は、アンタのお父さんとお母さんから頼まれごとをしているのだよ、あたしは」
「はあ?頼まれごと?ってゆーか、さくらさん酒臭いよ」
「五月蠅い黙れ、CherryBoy。アンタのお母さんはね、息子に喘ぎ声を聞かれたくないんだよ」
「いや、ちょっと、マジで勘弁してくれよ。おれ、そんな事聞きたくねえし。じゃぁ、ソレ聞かない様に朝まで大音量のヘビメタをヘッドホンで聴くから」
 親が今からセックスするなんて、世の中で一番聞きたく無い事のひとつだ。
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