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ペリドット
第1章 台風9号が直撃する夜。
「あと、私の方が年下なのに、さん付は可笑しくないですか?」
「そうかな?でも人妻だからなぁ。ちゃんがイヤなら呼び捨てだろうけど、それは流石に気が引けると言うか……」
「私は、別に、呼び捨てでも、いいですよ?」
「あはは、でも、なんかそう言うのって恋人みたいだし」
「あの……じゃぁ、えーっと、そのう、ケイゴさん、恋人になりませんか?私たち――」

 僕からすれば、彼女の言葉は非常に難解だった。いや直感的には理解しているのだが、僕はその理解をわざと捻じ曲げて自らの意思で難解にしてしまっていたのだ。
 人妻と恋人になる。それは所謂……。
「それって、僕と不倫をしたいって言うこと?」
「あの、私じゃダメですか?」
「いや、ダメって言うか」
 その瞬間、僕の脳内にキラリと閃きが走った。
 そうか、なるほど。このお食事会は仕組まれていたワケだ。主人の出張を忘れていて料理を作りすぎたと、如何にも若妻にありそうなミスを片手に、この女は僕に誘いを掛けて来たのだろう。
 純真さを装い、巧妙に策を張り巡らす……これだから女は恐ろしい。

「主人が出張って嘘なんです」
「え?じゃぁ、帰って来るって言う事?」
「帰っては来ません。今日は多分、別の女の所に……」
 ああ、僕は要するに、旦那への当て付け役という事か。
 一応、彼女がいないと言う事も確認しているし、これで心置きなく旦那への仕返しが出来るという訳だ。
 僕はビールを飲みつつ、沈黙を保つ事にした。
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