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ペリドット
第1章 台風9号が直撃する夜。
 シズカは、天井を見詰めたまま、覚束無い手つきで薄い水色ワンピースの裾を捲り上げた。
 この暗さの中でも分かる白い太腿が露わになる。
 そのまま下着も露出してしまうのかと思ったのだが、捲り上げる手はそこで止まり、手はスルりとワンピースと太腿の間に生じた影の中に消えていった。
 それはせめてもの抵抗にも見えたし、それこそがリアルな日常である様にも見えた。
 堅く閉じられた太腿と、影の中に消えている手が対照的なコントラストとして目に映る。

 彼女は僕の命令に忠実だった。
 淫乱に誘う気が少しでもあるのなら、股を開き、局部を曝け出していつも以上に己を愛撫すればいいのに、そう言う気配は微塵も見せないのだ。
 慎ましく、密やかにその白い身体を捩り、声も張り上げず、その名前通り静かに快感を得ている。
 多分、この人は本当に、この程度なのだろう。
 男性経験も少なく、知識も然程無く、唯一愛した旦那には半ば捨てられ、日々隣人の僕を思い浮かべて、独り寂しく自慰行為をする。
 ここまで来ると哀愁を覚えてしまう。
 そして、じゃぁ僕が色々と教えてあげればいいじゃ無いかと言う思いも溢れてくる。
 僕は、俄かに震える太腿へと手を掛けた。
 ビクりと期待通りの反応に心が色めき立ってしまう。

「いいから、そのまま続けてて。僕の事は気にしなくていいから」
「あ、あの……優しくしてください」
 彼女は久しぶりに僕の目を見てそう言った。
 いつの間にやら随分と大人の女の濡れた目になっている。
 そう言えばキスからして欲しいと言ってたっけ?と数分前の記憶がフラッシュバックした。
 その願い通りに、軽く唇を重ねると、彼女は言いつけを破り、強く思いの外情熱的に僕に抱きついてきた……。

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