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ペリドット
第2章 ふたりの少女。
 マンションの入口の端に立ち、空を見上げる。
 ここから見れる空はまだ黒く分厚い。
 永遠に雨を降らしそうな雰囲気もあるが、雨足は徐々に微弱になりつつあった。
 それから、行き着けの喫茶店へと目を向けた。カーテンが開いていて、照明も点いてはいるが、パッと見人影は見当たらない。
 以前にマスターが、北朝鮮からロケットが飛んできても営業すると豪語していたので、これしきの台風で店仕舞いにするとは思えないが、これで営業してなかったら、少しシンドイ事になる。
 近所には、この店以外に僕の心が安らげる店が無いのだ。
 僕は祈りを込めて、雨の中へと駆け出した。本気で走り出す前には店の扉に辿り着く。

 からんころんとレトロな音が響いた。扉を開けた先には髭面のマスターが渋い表情で佇んでいる。
 年齢は僕より一回りくらい上だと思う。
 間話はするが、お互いプライベートにはあまり首を突っ込まないタチなのだ。
「やあ、いらっしゃ、橘くん。スーツ姿で来てくれるなんてなんだか光栄だよ」
「良かった、営業してて。今日は昼から出勤なんですよ。電車が動いてなくてね」
「そうかい、もう休暇じゃ無かったっけ?取り敢えずコーヒーでいいかい?」
「ああ、はいコーヒーで。休暇は明日からですよ」
 と、いつも通りの軽いトークをした後、僕はいつもの定位置に陣取る。
 一番奥の小さなテーブルだが、静かに時を過ごすにはもってこいの場所なのだ。

 僕が席に着くと直ぐにバイトの女の子がオシボリと水を運んで来てくれた。
「あぁ、ありがとう……」
 多分、高校生くらいだろうか。先月くらいからたまに見かける顔だ。
 こんな日にバイトなのだろうか?しかも今日は平日なので高校生では無いのかもしれない。
 ああ、違う違う。今、学生は夏休みじゃないか。
「あのう……?」
 女の子は恥ずかしそうに声を掛けてきた。
「え?」
「あのう、ご注文は……?」
「あ、もう少しアトでもいいかな?コーヒー飲みながら考えるよ」
 僕は出来るだけ優しい口調で言ったつもりだったが、女の子は頬を紅潮させてレジの方へと走り去ってしまった。
 まだ慣れて無いのだろうか?目鼻立ちが整っていて利発そうな雰囲気は漂わせてはいるが、あがり症で直ぐに顔が赤くなってしまうのかもしれない。
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