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ペリドット
第2章 ふたりの少女。
 自由人である係長に連れ回されて可哀想にと同情してくれる人もいるかもしれない。
 そして、恐らく鈴木係長の事だから僕の安っぽい思惑の事などお見通しなんだろうな、と言う思いもあった。
 お互いにビールを空けると、係長は直ぐに動いてくれた。
 先輩方に「ちょっと、橘借りてくから」とさらりと言い残し二人分の料金を置いてから出口へと颯爽と歩いて行ってしまったのだ。
 直ぐに追い掛けたかったが、一応先輩方の反応を伺って見ると、早く行け行けと煙たそうな顔でジェスチャーされたので軽く頭を下げてから、もう既に姿の見え無い係長の後を追った。

 店の外に出て直ぐの所に係長の姿はあった。
 俯き加減で電話をしている。
 直感的に専務からだろうな、という思いが走った。
 踏み込んではいけない世界がそこにはある様な感じがした。
 少し距離を取って静かに待っていると、係長は僕に気が付き直ぐに電話を切ってくれた。
「ゴメンネ、誘っておいてあれだけどさ、もう仕事終わっちゃったんだって」
「あ、専務がですか?」
「うん、そう。流石にあの人と一緒にお酒は飲みたく無いでしょう?」
「はい、そうですね、とは言い辛いですけど」
「あはは、ゴメンゴメン。別に困らすつもりは無いから。じゃあ取り敢えず金曜日は宜しくね。連絡先は、ここに、明日にでも電話しといて」
 そう言うと、係長は名刺を差し出した。
 鈴木莉奈とアイドルみたいな名前が記されている。
 印象と違うので思わず笑みが溢れてしまった。

「あ、今ちょっと笑った?アイドルみたいな名前とかって思ったんでしょ?」
「そこまで正確に当てられると、否定出来ないですね」
「アタシだってこの名前付けられた時は可愛かったんだよ。今はこんな感じだけどさ」
「今でも似合ってますよ。明日、電話しますね。今日はありがとうございました」
「別に、感謝される様な事はして無いわよ。じゃぁね、アタシ向こうだから」
「僕は駅なんで……では、また」
 鈴木莉奈さんは、ヒラヒラと手を振りながら去って行った。暫くはその美しい後ろ姿を眺める事にした。
 結局、今日は僕の都合の良い形になってくれたワケだ。
 しかも、あの鈴木係長とお近づきになれたのは、仕事をする上でもかなりのプラス要素だった。
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