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ペリドット
第1章 台風9号が直撃する夜。
数歩前を歩く奥さんの背中はピンっとしていて、美しく見える。
案内された居間は、隅々まで整理整頓が行き届いた綺麗な部屋だった。僕の部屋もそんなに汚くは無いのだが、この部屋とは比べ物にならない。
綺麗好きな人が毎日毎日欠かさずに掃除を蓄積した結果と言うやつだろう。
敢えて一つ、この部屋に文句を付けるとしたら――。
「詰まらない部屋、でしょう?生活感が無い。綺麗過ぎて落ち着かない……的な」
「え?いや、そんな事は……」
あやふやに否定はしたものの、心中には奥さんの言葉がそのままあった。質素で家具はモノトーンで統一されていて、モデルルームの様にも見えた。
「うふふ、そんなに気を遣わなくてもいいですからね。主人にも良く言われるんです」
「そうなんですか、埃一つ無いって、正にこの部屋の事ですね」
「専業主婦だから、掃除以外にする事無いんですよ。私テレビもあまり観ないし、趣味も特に無いですから……橘さんは、こちらに座って下さいね」
僕がキョロキョロと部屋中を見渡していると、奥さんは涼しげな笑みを浮かべてダイニングテーブルの椅子を引いてくれていた。
テーブルの上には、奥さんが腕に縒りを掛けたという料理の数々が並べられている。所謂、家庭和食のオンパレードだった。
「凄いですね、料理。これだけ作れるんだったら、料理が趣味でいいじゃないですか」
「うふふ、褒めるのは食べて味をみてからにした方がいいですよ?お茶碗……主人の物でいいかしら?他に無くて」
「ああ、別に僕は……奥さんがそれでいいなら」
そう告げると、奥さんは青い唐草模様の入ったお茶碗に炊きたての御飯をよそってくれた。受け取る際は、必然と指先が触れ合ってしまう。
その程度の事で流石に色めき立つ事は無いが、心の片隅に小さな花を咲かせるくらいの純真さはまだ持ち合わせていた。
奥さんは同じ柄だが薄桃色で一回り小さい茶碗に自らの分をよそう。いざこうして対面すると、今更ながらに気分が高揚してきてしまった。少し顔が紅潮しているかも知れないと思うと、益々そわそわとしてきてしまう。
案内された居間は、隅々まで整理整頓が行き届いた綺麗な部屋だった。僕の部屋もそんなに汚くは無いのだが、この部屋とは比べ物にならない。
綺麗好きな人が毎日毎日欠かさずに掃除を蓄積した結果と言うやつだろう。
敢えて一つ、この部屋に文句を付けるとしたら――。
「詰まらない部屋、でしょう?生活感が無い。綺麗過ぎて落ち着かない……的な」
「え?いや、そんな事は……」
あやふやに否定はしたものの、心中には奥さんの言葉がそのままあった。質素で家具はモノトーンで統一されていて、モデルルームの様にも見えた。
「うふふ、そんなに気を遣わなくてもいいですからね。主人にも良く言われるんです」
「そうなんですか、埃一つ無いって、正にこの部屋の事ですね」
「専業主婦だから、掃除以外にする事無いんですよ。私テレビもあまり観ないし、趣味も特に無いですから……橘さんは、こちらに座って下さいね」
僕がキョロキョロと部屋中を見渡していると、奥さんは涼しげな笑みを浮かべてダイニングテーブルの椅子を引いてくれていた。
テーブルの上には、奥さんが腕に縒りを掛けたという料理の数々が並べられている。所謂、家庭和食のオンパレードだった。
「凄いですね、料理。これだけ作れるんだったら、料理が趣味でいいじゃないですか」
「うふふ、褒めるのは食べて味をみてからにした方がいいですよ?お茶碗……主人の物でいいかしら?他に無くて」
「ああ、別に僕は……奥さんがそれでいいなら」
そう告げると、奥さんは青い唐草模様の入ったお茶碗に炊きたての御飯をよそってくれた。受け取る際は、必然と指先が触れ合ってしまう。
その程度の事で流石に色めき立つ事は無いが、心の片隅に小さな花を咲かせるくらいの純真さはまだ持ち合わせていた。
奥さんは同じ柄だが薄桃色で一回り小さい茶碗に自らの分をよそう。いざこうして対面すると、今更ながらに気分が高揚してきてしまった。少し顔が紅潮しているかも知れないと思うと、益々そわそわとしてきてしまう。