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スカーレット オーク
第20章 20 ペンションの夜
緋紗は身体をゆるゆると洗い広々とした湯船につかって伸びをし、美肌の効果を期待しながら身体を深く沈める。――よく入った。

 髪をタオルでこすりながら脱衣所を出るとグリーンのパジャマ姿の直樹が水を飲みながら丸太の椅子に座っていた。

「よく温まった?」

ペットボトルの水を渡してくれる。

「あ、すみません」
「ロビーに行ってみる?暖炉がついているよ」
「はい」

 柔らかいソファーに二人で腰かけ暖炉のゆるゆると燃える火を眺める。

「窯の初日みたい」

 緋紗は嬉しそうに火をみつめた。

「窯焚きってすごい火なの?」
「火がすごいっていう感じじゃないですね。もちろん、いっぱい薪をくべたときは中でゴーゴー燃えますけど。どっちかっていうと千二百度超えてくるときの熱と光がすごいかな。もうまぶしくて目に残像が残るくらいですよ」
「へー。千二百度か。一回見てみたいな」
「窯を焚くと興奮しますよ」
 ――見せてあげたい。
 
緋紗はそうだ、と思い出したように直樹に質問した。

「直樹さんはピアノが趣味とかなんですか?」
「ん?ああ。そういうわけじゃないよ。前に兄貴の話したと思うけど」
「遊び人のお兄さん?」
「そそ。兄がなんでもやりたがる人なんだよ。しかも飽きっぽい」

 思い出してあきれたような顔つきをしながら直樹は続けた。

「ピアノはもともと兄貴が始めてね、なかなか熱心だったから両親もこれならとピアノを買ってやったんだ。僕が四歳で兄貴が六歳のころかな。買ったら今度全然弾かなくなってね。ピアノがもったいないからって僕にまわってきた訳さ。ほかにも色々おさがりがよく来たよ」

 やれやれと言ったふうだ。

「ああ、それで。和夫さんが直樹さんはなんでもできるって言ってました」

 直樹は笑って、「好きなことをやってきて出来るってことじゃないんだけどね。じゃそろそろ部屋に戻ろうか」と、立ち上がった。
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