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スカーレット オーク
第2章 2 バー『コリンズ』
 うんうんうなずいて緋紗は空になったグラスと壁の丸い時計を見た。
「マスター、おかわり!」
「終電、大丈夫?」
 グラスを下げながらマスターが気遣う。
「もう一杯はいけそう」
「お酒強いですね」
「強いというより単に好きなんです」

 男はロングスタイルのカクテルをゆっくり飲んでいる。ライムのグリーンが彼にとても似合っている。
緋紗は盗み見しているのを気づかれないように、下目使いで軽く男の上から下まで一瞥した。
柔らかそうな黒い髪、優しそうな眉と切れ長の目。
眼鏡で今一つ目の表情が読みにくいがすっきりしていそうだ。
形のいい鼻に大きめで肉厚だけど引き締まった口元。
体格はスマートな感じだろうか。
スーツと店内の暗さでわかりにくい。
恐らく中肉中背というやつであろう。
綺麗に切り揃えられた爪甲が器用そうにみえる。
しかし見れば見るほど普通だ。
特徴のなさが逆に緋紗に色々想像させ探究心が沸いてきてしまう。――どこら辺がエゴイスト……?

 物色しているのを悟られまいと緋紗は訊ねた。
「岡山の方じゃないですよね。出張ですか?」
 足元には滑らかそうな革のボストンバッグがある。
「静岡です。今日はチェーンソーの講習会を受けに来たんだ」
「へー。わざわざこんな遠くに」
「うん。開催していればどこでもいいんだけど、こっち方面は来たことがなかったから。岡山の山を見に来たようなものですかね」
 ――山ってどこも同じ気がするけど……。
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