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スカーレット オーク
第34章 34 女性客
 夕方になると客が次々にやってきた。
緋紗は厨房にこもって作業をしていたので、どんな客が来ているかよく知らなかったし、たいして知りたいとも思わず、小夜子から軽く客層のデータを聞きそれに応じて多少対応を変えるくらいだ。
直樹はピアノ演奏のため、多少客と顔を合わせることもあるだろうが、緋紗は裏方なので客と話をしたのは、この前の陶芸教室のみだ。

 今夜の客層はほぼ女性客のグループで元気で賑やかだ。
ディナータイムのピアノは直樹が担当で、演奏が聴けるのも今日が最後かもしれず、緋紗は客が静かに食事をしてくれるように祈った。
客たちが夕食の席に着き始め料理も並び落ち着き始めたころ、直樹もやってきてピアノの前に座った。
静かにピアノが流れ始める。
聴き始めた客もいるがそんなに主張もしない演奏なのでさらっと流されていた。
今日は緋紗にもよく聴こえてきた。――良かった。聴こえる。

 昨日は騒めきでよく聴こえなかった。
ついでに直樹のタキシード姿も目に焼き付けておきたいと思い、そうっと覗く。
ライトの加減で直樹は青白く、より冷たく硬質な雰囲気が漂い、無機質だが精密な指先の動きが緋紗をエロティックな気分にさせる。
噛まれた肩が熱くなる。
演奏を聴いているとあっという間に時間が過ぎてしまいそうだ。
小夜子に、「緋紗ちゃんもっと食べないとだめよ?」 と、注意されてしまった。

 小夜子は緋紗が真剣な目で直樹を見ている様子に、和夫と同様(この娘が悲しい思いをしませんように)と思うのだった。
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