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スカーレット オーク
第48章 48 窯焚き
 スーツを脱いでツナギに着替える。
デニム生地で綿百%だから大丈夫だろう。
そして静岡の銘菓と緑茶を手土産に松尾の工房へ行くことにした。
受付で教わった通り、タクシーで来た道を道なりに戻ると煙突から煙が出ている工房があった。
とくに看板が出ているわけではなかったが煙ですぐわかる。
少し坂を上るとレンガの敷かれた道が見えてきた。
広々とした駐車場があり工房らしい和風の平屋のもっと奥に、煙突と窯場の灯りが見える。
玄関らしいものもインターホンらしいものも見当たらないので、とりあえず窯場を目指して歩いて行った。――敷地広いな。

 少し歩くと、豊かだが白髪の、初老の男が椅子にゆったりと腰をかけて居るのが見えたので直樹は声をかけた。

「ごめんください」
「はい」

 くるっと顔を向けて誰だろうという顔をされたがすぐに、「ああ。緋紗の?」と見当を付けてきた。

「おーい。緋紗」

 窯に薪をくべ終わった緋紗に男は声をかけた。

「あ、着いたんですか」

 嬉しそうな顔で緋紗が迎える。
緋紗が、「先生。この前話した、大友さんです」と、松尾に紹介した。

「大友です。今日は見学させていただきに来ました」

 直樹は恭しくお土産を差し出した。

「これはこれは。遠いところから。ここにどうぞ」
「ありがとうございます」

 緋紗の師・松尾が親しみのある笑顔で椅子を差し出した。
直樹は腰かけて緋紗の作業を眺める。

「これから、あの前側の口に薪を何十本かくべて、温度があがったら横から焚いてくとこです」

 松尾が今の状況をゆったりとだが、てきぱきとした口調で説明をしてくれた。

「すごいですね。こんなに明るい火は初めてです」

 直樹は素直に感想を言った。

「折角みえたんじゃから横に入ったら緋紗と焚いたらいいですよ」
「ありがとうございます。邪魔しないように気を付けます」

 窯場は窯が雨に濡れないようにスレートの屋根と波型トタンの簡易な扉がある程度の建物で、地面も剥き出しだ。
風が強いと砂埃が舞う。
ほぼ屋外での作業のようだ。――開放的なんだな。

 直樹は自分の仕事場との違いを感じつつも、薪の燃える音、熱気や乾いた空気になんとなく原始的なものを感じ好感を持つ。
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