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スカーレット オーク
第53章 53 静岡へ再び
 しばらく走ると大きな富士山が目の前に迫った。――また見れた。
緋紗は懐かしい気持ちで富士山を見つめる。
車の乗り心地はとても良く、軽トラックでも全然かまわなかったが、こうしてのびのびと出来ると新幹線での疲れが幾分か軽減される。――この車、直樹さんによく似合ってるなあ。
車内は無駄なものが何一つなくカーフレグランスさえも置いていない。
少し機械油の匂いがしてそれが緋紗には居心地を良く感じさせた。

 そのうちに山の中へと入って行く。
道は舗装されているが町からはずいぶん遠ざかって近隣に家はないようだ。
途中で茶畑が広がったがもう茶摘みは終わっているらしく、茶色っぽい形の揃った低い塊が見えるだけだ。

「春になったら一面緑できれいだよ。その時にまた見よう」

 緋紗は静岡の目に入るものすべてにまた見られますようにと祈る。

 ぽつんとした一軒家の前で車が停まる。

「ここだよ」
 
 古びた農家のような平屋で古民家と古い家の中間のような雰囲気だ。
屋根は重そうな瓦で壁が土壁と木材の半々で出来ていて、家の外に洗面所がついている。
直樹が手を洗ったので緋紗も倣って洗った。――まさか実家?
玄関らしい引き戸を開けるとまだ土間だった。

「どうぞ。足元気を付けて」
「失礼します」

 緋紗は足を引っかけないように気をつけて入り高い天井の梁を見ながら、
「直樹さんのご実家ですか」
 と、訊ねた。

「ううん。ここは僕しか使ってないよ」

 緋紗がドギマギしていると、直樹は、「三年前に買ったんだ。組合員で退職する人が子供たちのところで暮らすことになってね。使ってもらえるんだったらって安く譲ってくれたんだよ。直すところがまあまああって住んでるのは実家だけどここは僕の隠れ家って感じだね。ここから上がって」 と、説明した。
――さすがに実家に呼ばれたりしないよね。びっくりした。
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