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スカーレット オーク
第8章 8 回想
 まだ薄暗いがいつもの習慣で直樹は六時前に目が覚めたが、すぐに起き出さず岡山でのことを思い返していた。


 オペラの会場で一人でいた緋紗は最初から直樹の視界になんとなく印象を残していて、若い女の子なのに『おひとり様』かと思った程度だったが、適当に入ったバーで隣に座られた時は少し驚いた。
そしてその後の情事。
緋紗と一夜を過ごした朝、目が覚めた時は、目の前の女の子にハッとした。
――ああ夢じゃなかった。

 一瞬、夢かと思ったくらい幻想的で蠱惑的な夜だった。
目の前の化粧っ気のない少年のような緋紗に不思議な愛しさが湧く。
まっすぐ伸びている若い苗木のような愛らしさだ。
剥き出しになっている緋紗の肩にシーツをかけてまた目を閉じたのだった。


 思わずまた目を閉じてしまうところを素早く起きだして作業服に着替え階段を降りた。

「おはよう」

 母の慶子はもう台所で朝食の用意を終えている。

「あら今日はちょっと寝坊?休みボケかしら?」

 味噌汁を差し出しながら言った。

「かな」

 テーブルに着くとトーストとスクランブルエッグ、サラダがある。
味噌汁の匂いがしたので、てっきり和食だと思っていたがビジネスホテルの朝食のメニューと同じだったので思わず吹き出した。

「やだ。なによ」
「あ、いや。美味しそうだなとおもって」

 いぶかし気な顔をして直樹を見る慶子に、「いただきます」と、手を合わせた。

林業は肉体労働で、もう就いて五年目だがつらい時はつらい。
こうやって毎日、森へ向かえるのは母のサポートのおかげも大いにあるだろう。
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