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スカーレット オーク
第8章 8 回想
 直樹は大学を卒業後、県内の大手建築会社の営業職に就いた。
特にそれがやりたかったわけではないが周囲の勧めと負担の少なさがなんとなく直樹を向かわせた。
働いている間、他に何かやりたいことを考えていたわけではないが、気が付けば林業に関心を寄せていた。
 そして二十八歳で林業組合に転職する。
年収は下がり、付き合っていた彼女には去られたが、直樹にしてみればやっと生きている実感が湧いたのだった。

「ごちそうさま」

 食器をさげて身支度に向かった。
今の作業場は車で十五分程度で七時半に出ても間に合うが、直樹は森に呼ばれるように支度が出来次第向かった。

「お弁当とお茶できてるわよ」
「母さん、ありがと。いってきます」

 弁当と水筒を持ち車に乗り込んだ。
持ち物は食事くらいで食べることができればそれでよかった。
舗装された山道を少し上って現場に着く。
いつも早めに来ているのだが絶対に一番は最年長の望月だ。

「おはようございます」
「おう。早いな」

 望月は定年で一度離職したのだが山から離れることができず、再就職した。
林業は体力もさることながら危険度も非常に高い職であるため、望月の家族は大反対だったらしい。
しかし山でほとんどの時間を過ごしてきた望月から山を取り上げることはできなかった。
またこの仕事に戻ってきた時に、「これで思い残すことはない。いつでも死んでいい」などと言い組合員みんなから、「頼りにしてるんだからまだまだ死なないでくれ」と、大歓迎された。
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