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スカーレット オーク
第8章 8 回想
 直樹にとって母が生活の面で支えなら仕事の面での支えはこの望月だ。
彼が再就職してくれて心からよかったと思う。
初めてこの世界に飛び込んだ時から可愛がられ、山に対する畏怖などの精神性も教えられた。
直樹にとっての『師』は望月である。

 今日も引き続き間伐だ。
毎日同じ作業であっても同じ状況とは言えない。
山は刻一刻と変わる。
どんなに人が技術を高め精度の高い方法で臨んでも、その日の山の機嫌でそれらが幼子のようなものになってしまうこともあるのだ。

「山は征服するもんじゃないよ」

 登山家に反するような望月の口癖だ。
最初、直樹にはよくわからなかったが今なら言わんとすることがなんとなくわかる。
木を一本切り倒して上を見上げると青い空が見え光が地面を刺した。
集中して作業をしているとあっという間に夕方になる。

「講習行っただけあって今日はうまいじゃないか」

 望月のほめ言葉に嬉しく思う。

「また来月末、広島にいって勉強してきます」
「そうか。勉強はできるときにした方がいいな」

 望月は機嫌よく頷きながら言った。

 夕焼けが今日も素晴らしい。――赤い。緋だすきみたいだな。
 緋紗のことを思い出しながら家路についた。
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