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スカーレット オーク
第9章 9 約束の日
「今日はなんの講習会だったんですか?」
「苗木の取り扱いについての講座だったよ」
「苗木?」

 ――おじさんたちが小さな芽を大事にするのか。
 勝手な想像で少し愉快になった緋紗は緊張がほぐれてくる。

「うん。動物もそうかもしれないけど人工的に育てるってことはそれなりにデリケートな扱いをする必要があってね。種類によっても違うから簡単ではないんだ」

 緋紗は単純そうに見えることに奥行きを感じて関心を持った。

「私は木を燃やす側なんですが、やっぱそういうのって森林破壊だと思います?」

 いつも緋紗が疑問に感じていることだ。

「うーん。人って消費をせずにいられないからね。林業は育てた木材を売って成り立つ商売でもあるから使ってもらわないと困るよ。僕は破壊があっても新しく創造できればいいんじゃないかなと思ってる。消費も生産もなく変化しないってことがどうなのか想像つかないけどね」

 緋紗も同意した。
作らずにはいられない。
作っては壊し、壊しては作る日々だった。

「なんか真面目な話してる?おまちどうさま」
 マスターが冷気を感じるグラスを二つ持ってくる。

「いただきます」
 
大友はすぐにグラスに口を付けた。
陶器と違ったシャープなガラスの口辺が大友のクールな横顔にマッチする。
大友は緋紗のオリーブをかじる様に蠱惑的なものを感じている。
二人とも探る様に時間をかけて飲んだ。

「おかわりは?」

 大友に聞かれたがもう緋紗には十分だった。

「ううん。もう今日はこれで」
「じゃ出よう」
「ごちそうさま」

 大友が立ち上がり緋紗も後に続き、支払おうとしたが大友が、「いいよ」と、止めた。

「ありがとう。また寄ってよ~」

 マスターの笑顔に見送られて店を出た。
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