この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
片時雨を抱きしめて
第1章 第一章 自覚
「おい、綿谷!」
次の日学校に行くと、担任がまた私を呼び出した。
連日面談ははじめてだな……心の中で苦く笑った。
生徒指導室は狭い。
先生のボールペンの音がよく響く。癖なんだろうな、それ。
「進学か就職かだけ教えてよ。あ、あと昨日言ってた片親向けの奨学金。条件厳しいのも多いけど、綿谷だったらいけそうなやつもあるし、ほら、この作文のやつとかさ。親御さんともちゃんと話さないと、ね」
青木が私の顔を覗き込みながら優しく言う。子供をあやしつけるように。
親御さん、か。
恋人と喧嘩するだけで部屋中吐しゃ物まみれにするママも、私の親御さんなのか。
目の奥がじんとした。
「ママはさ、彼氏と喧嘩して弱ってるから、いまそういう話はできんの。
先生にはわからんやろうけどさ、みんながみんな素敵なママを持っているわけではないんよ。
かわいくて、きれいで、自慢のママだけど、大好きだけど、ママはうちのこと好きじゃないし、そういう、目の当たりにするのきついよ」
だから、こういう話はつらい。
親子の関係が試される話は、つらい。
今のママにそんなはなしをして、まともに取り合ってくれるわけがない。