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片時雨を抱きしめて
第1章 第一章 自覚



ママからの拒否が、つらいのだ。


視界が揺れる。目と鼻の奥がつんと熱くなって、声が震えた。

「ねえせんせい、つらい、私、つらいんよ」
言葉にならない感情が、目の淵からあふれ出した。
先生の前で泣いたのは、先生の前でママの話をしたのは、はじめてだった。



先生ははっと驚いた後困ったように笑った。

そしてそっと、ためらうように空をさまよった後、

私の頭に触れた。

「綿谷はえらいよ、気いすむまで泣きな」



その手はやさしくて
温かくて、大きかった。
私のショートボブに手をはわせながら先生はつづけた。


「俺にできることあったら何でも言って、こうやって話聞くだけでも、綿谷が楽になれるなら、いつでもするから」

誰かの前で泣くことで、こんなにも楽になれるなんてしらなかった。




先生のてのひらのぬくもりが、心の中をぎゅっとつかんでかき乱した。

涙ではりついた髪の毛を先生が耳にかける。それに気づいた私がはっと顔を上げた。



目が、合う。




先生の触れるところすべてが熱を持つ。

先生の指が耳朶にかるく触れた瞬間、私は恋を自覚した。

お腹の底がきゅっとうずいた。




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