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片時雨を抱きしめて
第3章 第三章 記憶
「で、それが全然クリアできなくてさ、」
私が足を止めたことに先生が気づき、声が止まった。
「ん、どうかした」
少しだけ先をゆく先生が私のほうを振り返る。
綺麗な黒い髪が揺れる。少しだけ透いた黒い目、その中に私が小さく映る。
「どこ、向かってるの」
_____私は何も言えなかった。
言いたいことは、こんなにもたくさんあるのに。
言わなければいけないことは、こんなにもたくさんあるのに。
なにも。
先生もそうだよね、先生だって言いたいこと、言わなくちゃいけないこと、たくさんあるよね。
それとも_____、
こんなにも苦しいのは、私だけなの。
ぐるぐると黒く渦巻く胸の中を見せないように、私はおどけたように先生のほうへ走った。少しだけ空いていた距離を詰めて、となりに並ぶ。
身長差のある先生の顔を覗き込むようにして言う。
「歩くの疲れてきた」
先生は困ったように眉を下げて、
いつものように子供をなだめるように、私の頭の上に手を置こうと、
空をさまよったあと、
_________手を、下した。